藍井エイル「月を追う真夜中/voyage/ヒトリトヒトリ」:三つの曲が見せる世界は、聴き手を違う体験に導く

fujiokashinya
4 min readSep 4, 2019

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Eir Aoi

藍井エイルのシングル「月を追う真夜中」がリリースされました。先行して配信されていた表題曲の他に、「voyage」と「ヒトリトヒトリ」という新曲、そして通常盤CDおよびストリーミング・サービスでは「月を追う真夜中」のインストゥルメンタルが収録されています。どの曲も素晴らしい。インストでさえも新しい世界を見せてくれます。

2ヶ月ほど前に「月を追う真夜中」の配信が始まったときに感じたことは「リズムにメロディがはまっている。リズムを感じながら聴くとメロディが自分の中に深く落ちていく」というものでした。リズミカルに展開するボーカルが心地好く、淀みなく身体に流れ込んでくる感覚があって、何度も聴きたくなります。

「月を追う真夜中」のインストを聴くと、ストリングスの重ね方が印象に残りました。ストリングス・カルテットが活躍するアップテンポの曲は良いですね。バンドの音とカルテットの音が交差して、互いの音を高め合っています。そして、再びボーカル入りを聴くと、歌声とストリングスが絡み合って、より膨らみのある、存在感の大きい曲だと感じられます。ぜひ、歌とインストを交互に聴いて、聴き手の中でひとつの世界を織り上げてみてもらいたいと思います。

「voyage」の詞はmeg rock、曲はTAMATE BOXが担当しました。meg rockは、ライブの定番曲として馴染み深い「シリウス」の詞を書いたアーティストです(2枚目のアルバム『AUBE』に収録されています)。また、TAMATE BOXは、最新アルバム『FRAGMENT』に収録された「螺旋世界」という曲も提供しています。

藍井エイルのボーカルはさまざまな表情を持っており、メイクを変えるように、曲によって異なる顔を覗かせます。印象的なメロディと組み合わさることで、またひとつ、新しい世界のドアが開かれます。「voyage」の中で僕が気に入っているのは、サビメロの艶っぽさです。艶めいたボーカルは、扇情的なピアノの音をまといながら、複雑な模様を描きます。切ないようでいて、挑発的でもある。そうした雰囲気を感じる曲です。

もうひとつの新曲「ヒトリトヒトリ」では、ストレートなバラードを聴かせてくれます。藍井エイルが歌うバラードの新曲は久しぶりなのではないでしょうか。『FRAGMENT』にバラードらしいバラードが収録されていないことを考えると、この曲はアルバムの候補曲のひとつだったのかもしれません。

言葉を搾り出すように歌う、その雰囲気に圧倒されます。届かない相手に向かって、届かないと知りながら、言葉を届けようとしている。それは行き場のない絶望にも見えますが、ある意味では滅びの美学のような、切なくつらいからこそ誰かの心を動かすものだとも思えます。ピアノの叙情的な音が言葉を照らし、その輪郭を際立たせています。

そして、最後に印象に残ったのは、歌詞カードに綴られた「たくさんの温かさを感じて 今日も私は歌えています」という言葉。とてもシンプルで、とても鮮やかで、胸にしみます。この言葉も含めて、一枚のシングルに詰め込まれたあらゆるものから、ただひたすらに「音楽」を感じます。それが嬉しい。

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