京極夏彦『百器徒然袋 雨』『百器徒然袋 風』:探偵は敵も味方も翻弄して事件を粉砕する
Sep 23, 2022
京極夏彦の小説『百器徒然袋 雨』と『百器徒然袋 風』は「百鬼夜行」シリーズのスピンオフ作品です。それぞれ三本の物語が収録されており、鳥山石燕の『画図百器徒然袋』に登場する妖怪をモチーフにしています。
「百鬼夜行」シリーズ本編の主役は京極堂こと中禅寺秋彦ですが、この二作では探偵の榎木津礼二郎が中心に描かれています。本編での榎木津は脇役といえども、どの作品でも強烈なインパクトを残します。それが主役になるとどうなるか。
探偵らしからぬクレイジーな言動と行動で我が道を行く探偵は、敵も味方も翻弄して事件を解決……否、粉砕する。例えば「鳴釜」のように重く暗い題材も、榎木津の手にかかれば後味は悪くなりません。破壊し尽くされた事件の跡から芽吹くのは、再生の兆しです。途中から榎木津がどのように暴れるのか楽しみにしながらページを繰る自分がいました。
京極堂は巻き込まれまいとしつつも、彼らしい言葉の奔流を見せ、結局は榎木津の片棒を担ぎます。本編とは異なる京極堂の表情や悪乗りが見られるのもこのスピンオフの魅力です。榎木津の振る舞いは傍若無人のようで実は……という落差も垣間見えます。「百鬼夜行」シリーズの世界を拡げて、豊かなものにする作品です。