Zedd『Telos』:十の音楽世界を巡る旅

fujiokashinya
Sep 5, 2024

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2024年、Zeddが世に放ったスタジオ・アルバムのタイトルは『Telos』といいます。2012年の『Clarity』と2015年の『True Colors』に続く、実に九年のインターバルを挟んで発表された三枚目のアルバムです。前作を発表した後、Zeddは10枚以上のシングルを出しました。しかし、いずれも本作には収録されていません。すべて新曲で構成されているのは、今に近い作品だけを収めたかったからなのか、あるいは収録曲のミッシング・リンクを重視したからでしょうか。

10曲で都合40分に満たない時間ながら、豊潤な音楽体験が得られる一枚です。美麗なストリングスを張り巡らせたシンセサイザー・ミュージックは、あるときはポップスに寄り、あるときはエレクトロの成分を多く含み、インドやアイルランドの楽器を鳴らす曲もあります。シンセサイザーで描くメロディはキャッチーで爽やかに響いて僕らの心をつかみ、一方でまとわりつくような粘り気で心に残り続けます。

アルバムという単位を意識する作品です。小説をプロローグからエピローグまで順番に読むように、『Telos』の10曲をリニアに聴きたい。通して聴くことで、音や歌から物語がイメージできるかもしれません。ドラマチックな音の展開は映画音楽に近いと思う人もいるのではないでしょうか。自分はというと、ぼんやりとではありますが、『指輪物語』などファンタジー系の物語を想像しました。本作を聴いた音楽ファンは何を思い浮かべるのか。音楽の行間から姿を見せる物語、その人だけのエピソード。音を巡るイマジネーションの旅です。

もちろん独立した曲として聴くことに何の問題もありません。第一印象で惹かれた曲が「Automatic Yes」です。リズミカルでスペーシーなシンセサイザー、色気の滲むギター、跳ねるリズム。ギターとともに披露されるJohn Mayerのボーカルも素晴らしい。加えて、Greyとの「Shanti」もインパクトを残します。インドの打楽器を効かせたエレクトロニック・サウンドに、幾人ものコーラスを重ねた曲です。宗教的儀式の雰囲気に包まれたかと思えば、次の瞬間にはエレクトロの波に吞まれます。

「Sona」は本作で唯一のインストゥルメンタル。参加したthe olllamは、ロー・ホイッスルとイリアン・パイプスというアイルランドの管楽器を操るグループです。オーガニックで哀愁を運ぶ音でありながら、エネルギッシュで曲を先導する音は、強いタッチのシンセサイザー・サウンドにも負けていません。そして注目すべきはエンディングです。清流を思わせる美しいメロディに身を任せ、多幸感あふれる音に酔います。さらに「Lucky」のイントロとつながり、幸せな時間が続きます。

最後を飾る曲は、Museと制作した「1685」という美しいバラードです。Johann Sebastian Bachの「Das Wohltemperirte Clavier(平均律クラヴィーア曲集)」をモチーフにした曲で、旋律と歌と音が一体となって荘厳な盛り上がりを見せます。音が消えてアルバムも終幕――と思いきや、ストリングスの優しい音が戻ってくるさまは、さながら映画のエンドロール。ストリングスに導かれて冒頭の「Out Of Time」に戻り、再び『Telos』の世界に潜ります。さて、次はどのような出会いが待っているのでしょうか。

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fujiokashinya

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