Yes「Total Mass Retain」:鋭い音の響きと美麗な旋律が導く起承転結の「承」
数十分にわたるプログレの組曲は複数の楽章から構成されており、ひとつひとつにドラマチックな展開が待ち受けています。目まぐるしく変わる曲の世界を堪能できるのが、時間をかけて大作を聴くことの楽しみです。その一方で、各楽章にフォーカスして聴くのもまたおもしろく、トータルで聴くときとは別の楽しみがあります。
Yesが1972年に発表したアルバム『Close To The Edge』の表題曲「Close To The Edge」は、四つの楽章で構成されています。起承転結を綴る各楽章は、いずれも大きなプレゼンスを放ち、独立した曲として聴いても聴きごたえがあります。第二楽章の「Total Mass Retain」はシングル・カットされ、現在はアルバムのデラックス版で聴くことができます。
「Total Mass Retain」の演奏時間は2分半ほどの短さです(シングル用の編集では3分超)。第一楽章である「The Solid Time Of Change」の後半の旋律を踏襲しながら、切れ味の鋭い演奏を披露します。美しい音の構造、音の輪郭がよく見えるアレンジです。複雑な模様のドローイングに長けた人がシンプルな円を描く――そんなイメージが浮かびます。
現在どころか当時ですらプログレはマニアックな扱いをされていましたが、曲によってはそこまで難解ではありません。「Close To The Edge」の歌詞を解釈するのは難しくとも、サウンドは聴きやすい方なのではないでしょうか。特に「Total Mass Retain」の音はポップさも感じられ、プログレの暗いイメージから離れた明るさがあります。