Yes「Close To The Edge」:クレバーな演奏とアグレッシブな衝動がせめぎ合うロック・スイート
1970年代前半はプログレッシブ・ロック(プログレ)の盛期であり、有名な作品がいくつも生まれました。King Crimson、Pink Floyd、Emerson, Lake & Palmer、Genesis…とプログレのムーブメントを牽引したバンドを挙げるとき、Yesは外せません。僕は21世紀に入ってからプログレに興味を持ち、いくつかのアルバムを聴きました。そして今も定期的に聴くアルバムが、1972年にリリースされたYesの『Close To The Edge』です。20分近い大作の表題曲を含む全3曲が収録されています。
「And You And I」や「Siberian Khatru」もそれぞれの良さがありますが、何と言ってもやはり表題曲の「Close To The Edge」に強く惹かれました。序盤で音の奔流に圧倒され、メロディが美しく流れる中盤で興奮をリセットし、そして終盤のパワフルな演奏で解放される。この長さ、この構成だからこそ生まれる力強さや美しさに魅せられ、その魔法は今もなお続いています。
「Close To The Edge」は、きれいな起承転結を描く4つのパートで構成された組曲(suite)です。開幕を告げる「The Solid Time Of Change」では、ギターとベースを軸とした緻密な演奏テクニックをこれでもかと見せつけられます。約6分のダイナミックな音の奔流を体験すると、次の「Total Mass Retain」につながります。「The Solid Time Of Change」の雰囲気を継ぐ演奏と、ポップな一面を見せるメロディが2分半ほどに凝縮されたパートです。切れ味の鋭い演奏でありながら、聴きやすさも備えています。その空気を変えるのが、バラード調の「I Get Up I Get Down」です。このパートの前半では穏やかな歌が、後半では感情があふれんばかりの歌が響きます。
美しい歌声に導かれるように、パイプオルガンの荘厳な音がこの音楽空間を満たします。その演奏が頂点に達するとミニモーグの音に切り換わり、それをきっかけにバンドのワイルドでタフな演奏が飛び出します。最終パートの「Seasons Of Man」の始まりです。特に強烈な印象を残すのがハモンドであり、その音の連鎖は筆舌に尽くしがたい。クレバーな演奏をアグレッシブな衝動が呑み込まんとする、その争いを目の当たりにします。歌はこれまでのパートと同じメロディを繰り返しますが、よりエモーショナルになり、歌でも曲の最終章を盛り上げます。最後は、消えていく音のなか、もっと聴いていたい、終わらないでほしいと願いながら、閉幕する「Close To The Edge」組曲を惜しみます。