TM NETWORK「金曜日のライオン」:TM NETWORKの運命を決めたデビュー曲

fujiokashinya
Apr 21, 2021

1984年4月21日は、TM NETWORKがシングルとアルバムを発表してデビューした日です。デビュー・シングルは「金曜日のライオン ~Take it to the lucky~」。木根さんのエッセイ『電気じかけの予言者たち』によると、デビュー曲を「1974」(結成直後に制作した曲のひとつ)にする案があったものの、最終的に「金曜日のライオン」が選ばれました。デビュー曲がグループのすべてを決めるわけではありませんが、40年近い歴史のなかで、この選択が与えた影響は意外と大きいのかもしれないと考えたので、その理由を書き連ねてみます。

デビュー・アルバム『RAINBOW RAINBOW』は総じてポップであり、たとえばニュー・ロマンティックといったポップスの色が強く出ています。けれども、そのなかにもマニアックな空気が漂っており、そこに僕はこのアルバムの魅力を感じてきました。その筆頭が「金曜日のライオン」です。短く編集されたシングル版はポップで聴きやすい曲だったのですが、フルレングスのアルバム版を聴くと印象が変わりました。アルバム版で聴いたイントロのシンセサイザーやエンディングのBメロのリフレインに強い哀愁を感じ、驚いた記憶が鮮明に残っています。

小室さんは『Keyboard magazine』(2014 AUTUMN №386)で最初期のTM NETWORKについて以下のように語りました。当時は「バンドではなくても、バンドのサウンドを基本にしているものが主流」であり、具体的には「ギター、ベース、ドラム、そしてキラキラしたシンセサイザー、ピアノに加えて、ブラス・セクションやパーカッションを入れるという曲作り」が流行していました。対して、TM NETWORKでは「そこから抜いても大丈夫そうな音だったり楽器だったりを消して、代わりにリズムで埋めてグルーブ感を出」し、「音を消して、代わりにシンセサイザーを入れて、それが主役に聴こえるように」制作していたようです。そういった独特な音の組み立て方が、ポップに見えるけど実はマニアックという僕の感覚を説明してくれる気がします。

金曜日のライオン ~Take it to the lucky~

「金曜日のライオン」は「A-B-A-B-サビ、A-B-サビ、B-B-B」と構成されていて、サブタイトルの “Take it to the lucky” が歌詞に含まれるBメロが印象に残りやすい曲です。いつだったか「この曲のタイトルとサブタイトルは反対だった」という話を聞いたこともあり、僕は「Bメロに当たる部分が当初はサビだったのでは?」と推測したことがあります。

『電気じかけの予言者たち』には、Bメロからサビに入るところの転調が歌いづらいとウツが苦労する場面が出てきます。転調そのものは珍しくありませんが、サビでがらりと雰囲気が変わるので、「サビを後から書き加えた」あるいは「別々の曲を分解してつなげた」などと考えたくなります。木根さんの「小室君は部品からも曲を作れる。こっちの曲のAメロ、こっちの曲のサビを持ってきて、曲を作れちゃう人なんです」(『Keyboard magazine』2014 AUTUMN Vol. 386より)という証言を待つまでもなく、小室さんはそういうことが得意というか自然にやるので、「金曜日のライオン」もそうだった可能性はなくはない。

この曲のBメロはサビを印象づけるブリッジ的な役割を果たすのではなく、Bメロもサビも別個の存在感を放ちます。また、後述する2014年のリメイクでは、2番のサビがカットされて「A-B-A-B-サビ、A-B-B」という構成になり、もはやサビがブリッジのように思えてきます。ポップスの定型に当てはまらない構成が、「金曜日のライオン」のマニアックさを醸す要因のひとつではないでしょうか。

金曜日のライオン ~Take it to the lucky~ (Live at PARCO SPACE PART3)

「金曜日のライオン」のマニアックさは、二度に渡るリメイクによってさらに濃くなります。どちらも当時小室さんが傾倒していたエレクトロニック・ミュージックの要素が強く反映されています。2004年のDOUBLE-DECADE(20周年)では、トランス系のアレンジで録音され、「TAKE IT TO THE LUCKY ~金曜日のライオン~」というタイトルが付けられました。ポップスとのバランスをとっていたとはいえ、トランスそのものがマニアックであり、しかもデビュー曲のリメイクで実践するのは、なかなか攻めたアプローチです。

一方、2014年の『DRESS2』に収録された「金曜日のライオン 2014」でのアプローチはEDM。ボーカルの占める割合が下がり、DOUBLE-DECADEよりもさらにエレクトロニック・サウンドの印象が強まりました。なかでも、David Guettaやdeadmau5を思わせる重厚なベースやキックは格別で、その重みと厚みはTM NETWORKの曲でトップクラスでしょう。もちろんEDMにはポップな曲も多く存在しますが、このリメイクでは明らかにマニアックな方のEDMを標榜していました。

1984年頃のライブ・テイクを聴くと、レコードよりもシンセサイザーの存在感が大きくなり、ダンス・ミュージックらしくなっているのが分かります。リメイクでエレクトロに改造されたのも、なるべくしてなったというべきか、そういうポテンシャルがあったのだと思えます。マニアックであることが「金曜日のライオン」らしさであり、デビュー曲というポジションを得たことは、「ポップさは忘れずに、しかしマニアックなことをやり続ける」というTM NETWORKのスタイル形成に大きな影響を与えたのではないでしょうか。ファンク、ユーロビート、ハード・ロック、ハウス、テクノ、プログレ、トランス、EDMと変遷してきた音楽スタイルを振り返って思うのは、ポップな曲を中心にしたグループだったら、ここまで変わることはなかったということです。「『金曜日のライオン』はTM NETWORKの運命を決めた一曲だった」という表現も、あながち大げさではないのかもしれません。

--

--

fujiokashinya

I am just a music/book lover. 音楽体験NOTESとブック・レポート My Twitter page: https://twitter.com/fujiokashinya