TM NETWORK「Whatever Comes」:ポップさが際立つサウンドとメロディ、埋め込まれた印象刷新のトラップ
TM NETWORKのシングル「Whatever Comes」の配信が始まりました。映画『劇場版 シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』のオープニング・テーマとして使われる曲です。ギターとシンセサイザーの音を巧みに使い分けて聴き手の印象をコントロールし、散りばめられたパーカッションの音が曲を盛り上げます。
『Sound & Recording Magazine』(2023年8月号)で小室さんは「似てないですけど、『Self Control』とか『WILD HEAVEN』あたりのスピード感は感じてもらえるかなと」と語りました。確かに1980年代後半~90年代前半のシングル曲に通じる疾走感が味わえます。心地よいスピードで進む曲に身を任せ、サウンドや歌を堪能します。
映画用の編集版(Opening Edit)はフルレングスの二ヶ月ほど前に配信されました。そのときの印象は、シンプルでポップ。ギターを中心にしたアレンジは聴きやすく、歌メロは口ずさみやすい。分かりやすさを優先したのかと思いました――が、第一印象はフルレングスによって覆されます。あっさりとは終わりません。Opening Editの先を聴くと、印象は刷新されます。
同じパターンで二番が始まるかと思いきや、音が減って緩急がつき、ボーカルが引き立つ演出に意表を突かれました。また、後半はエレクトロニック・サウンドを前に押し出すシーンが目立ちます。そして、終盤でもサビの英語詞を繰り返しますが、印象的だったのは譜割が変わっていることです。何度もサビをリフレインして聴き手に印象づけることで、この変化が際立ちます。いずれもTM NETWORK独自の手法ではありませんが、ポップスといえども重層的にトラップを仕掛けるアプローチにTM NETWORKらしさを感じました。