TM NETWORK『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -STAND 3 FINAL-』:聴かせる曲と踊れる曲のDYNA-MIX、現在進行形のサウンドを注入するステージ
TM NETWORKが2024年1~3月に開催したツアーの最終公演を収録した『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -STAND 3 FINAL-』がリリースされました。「GREEN DAYS」や「COME BACK TO ASIA」などのバラードやミディアム・テンポの曲も、勢いのある「DEVOTION」や「LOVE TRAIN」のような曲もバランスよく配置された構成です。ツアーが終わった後、三人は40周年プロジェクトの最終章に向かって進み始めます。
映像で確かめると、アップテンポの曲は記憶より一段とアグレッシブで、「DIVING」や「N43」といったミディアム系も記憶以上にダンサブルなことに気づきました。全体的にソフトな印象だったという終演後の感想は、随分ファジーな記憶をもとにしたものだと思い知らされます。「NIGHTS OF THE KNIFE」による開幕、木根さんが弾くアコースティック・ピアノや小室さんのピアノ・ソロ、「GET WILD」を外したセット・リストというインパクトのある要素に引っ張られたのかもしれません。
ライブで大きな存在感を見せたのは、1986年にTM NETWORKが示したコンセプト「FANKS」に関する曲です。この時期は、もっと踊りたいという声に応えてダンス・ミュージックへのアプローチを明確にして、ファンクなど踊れる音楽を発表しました。そのうちの一曲が「YOU CAN DANCE」です。今回のライブで久々に演奏され、僕は生で初めて聴きました。踊れ踊れもっと踊れと煽る音、♪You can dance like a rock (roll)♪のリフレインが観客を呑み込みます。同様にFANKSを体現する「NERVOUS」もセット・リストに加わりました。踊りたくなるサウンドと歌いたくなるメロディが共闘して会場をヒートアップさせます。どちらの曲もリリースから多くの時間を積み重ねましたが、ライブでの爆発力は健在です。この時期から本格化したダンス・ミュージックへの傾倒は、今に続くTM NETWORKの道を切り開きました。
FANKSを掲げる前は音楽制作もプロモーションも暗中模索の日々が続いたことは、三人やスタッフのインタビューを読んで知るところです。当然ながら無意味な時間だったわけではありません。そうした時期に書かれた曲も、ヒットを飛ばすようになってからの曲と同じように宝物です。今回のライブでは、三枚目のシングル「ACCIDENT」が披露されました。リズムを強調して四分音符の四連打など新しいアプローチを組み込むことで、ポップスらしさが強かったオリジナルが改造され、EDM時代にフィットするように転生しました。分厚いエレクトロニック・サウンドが曲を支え、バンドの音がメインだった頃とは印象が変わります。懐かしいと思える曲を演奏しても、ステージで注入される音は現在進行形のサウンドです。
ライブを締めくくる曲は、2012~2015年におけるプロジェクトの嚆矢となった「I am」です。小室さんが語ったところによると、あらゆる人に向けての応援ソング。頑張れという応援ではなく、立ち止まって前に進めなくなっても、みんな同じだから大丈夫――というメッセージを三人で届けたかったとのことです(2024年4月29日放送 NHK FM「TM NETWORK 40 Special ~電気じかけの予言者たち~」より)。作詞家として好きな詞だとも話しました。だからでしょうか、ライブではマイクを引き寄せて積極的にコーラスを重ねるシーンが多く見られます。言葉を見つける、言葉を届ける。作詞に対する小室さんの自己評価は作曲や音づくりに比べて低めですが、「I am」では言葉よ届けといわんばかりに声を出す姿がいつも印象的で、今回のステージでも胸に響きました。