TM NETWORK「TIME」:雨音は人々の喧噪に紛れ、記憶のなかで降り続く

fujiokashinya
Jun 4, 2023

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TM NETWORK「TIME」という曲は、1985年に発表された二枚目のアルバム『CHILDHOOD’S END』で聴けます。原曲はTM NETWORKの結成前からありました。「小室さんと木根さんが作曲し、ボーカリストが歌うグループ」を構想していたときに小室さんが書いた曲です。当初はオーストラリア出身のボーカリストが参加することになっていたものの頓挫し、「TIME」の原曲も形にならないままでした。その後、ウツが加わってTM NETWORKの誕生に至り、『CHILDHOOD’S END』の制作時に「TIME」として日の目を見ます。

レストランでの客の会話や食器の音が聞こえるなかで始まる「TIME」は、言葉を丁寧に紡ぐバラードです。アレンジやボーカルに粘り気があり、湿度の高い空気が肌にまとわりつくイメージを呼び起こします。随所に顔を出す雨という言葉に影響された印象かもしれません。しかしそれだけではなく、叙情的に響く歌や、ピアノやパーカッションの音が醸す哀愁が入り混じっているためだと思われます。濡れた髪のような湿り気を帯びた色気は、後のTM NETWORKには見られないものです。

1989年には、発表済みの曲をイギリスやアメリカの著名なプロデューサーがリミックスする企画が行なわれ、「TIME」も対象になりました。「TIME (PASSES SO SLOWLY)」というタイトルで発表されたリプロダクション版は、リズムが強調されて曲の輪郭が明瞭になり、ギターの音がメロディアスに響きます。クールで乾いた音に仕上がっていて、このアレンジの方がTM NETWORKのイメージに近いのではないでしょうか。裏を返せば、オリジナルの「TIME」から伝わる湿り気はかなり異質であり、それだけ貴重だといえます。

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Written by fujiokashinya

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