TM NETWORK「RHYTHM RED BEAT BLACK」:交差する赤と黒の世界、交錯するロックとハウス

fujiokashinya
Oct 17, 2018

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トーキング・モジュレーターで歪んだギターが響くTM NETWORKの曲と言えば「RHYTHM RED BEAT BLACK」です。1990年にTMNとして最初にリリースしたアルバム『RHYTHM RED』に収録され、のちにシングル・カットされました。トーキング・モジュレーターとはキーボードやギターの音を「口で反響」させて変化を加えるエフェクターの一種です。

「RHYTHM RED BEAT BLACK」の特徴は、メインのフレーズを繰り返すシンセサイザーとギターです。このループがとても気持ち良い。ディストーション・ギターはロックの熱を放ち、シンセサイザーはハウスの空気を漂わせます。そこにトーキング・モジュレーターを通した音やスクラッチ・ノイズを織り交ぜ、さらにボトムを支えるキックやベースが色気を醸します。音と音が艶っぽく絡み合い、ロックとハウスが交錯する。

1991年には、ボーカルとバックトラックを一新したリミックス “Version 2.0” をシングルとして発表しました。歌詞はすべて英語になり、サウンドからはギターをなくし、オリジナルよりハウスの色を強めたアプローチといえます。さらに、1993年のリミックス・アルバム『CLASSIX 1』には “house sample foods mix” という名称のリミックスが収録されました。オリジナルのボーカルとサウンドを土台として、ラップのようなコーラス、金属的なシーケンサーの音を重ねて厚みを持たせています。

基本的なカラーは共通するものの、ライブのたびに「RHYTHM RED BEAT BLACK」のアレンジは変化しました。YouTubeには、2015年のライブ〈TM NETWORK 30th FINAL〉の映像がアップロードされています。小室さんは三方に配置したソフト・シンセをリアルタイムでコントロールしながら、背後にセッティングしたRoland社のシンセサイザー「JD-XA」を弾き、太くて厚い音を響かせます。サビ前のブリッジやアウトロで登場するJD-XAの音は、ギターと火花を散らしながら音の宴を彩ります。

ギターをメインで弾くのは「葛G」こと葛城哲哉ですが、「RHYTHM RED BEAT BLACK」といえば葛Gというくらい密接な関係にあります。この曲が演奏されたすべてのライブに参加し、トーキング・モジュレーターを駆使した演奏を披露しました。ノイジーな音で空気を震わせるそのパフォーマンスは、赤と黒が交わる世界に観客を引きずり込みます。

歌詞を書いたのは、1990年代のドラマを象徴する脚本家、坂元裕二です。装飾的な歌詞は現実感を歪ませて、フィクショナルな世界を描きます。『RHYTHM RED』を貫くテーマのひとつにデカダンス(退廃的)がありましたが、その要素を「RHYTHM RED BEAT BLACK」に強く感じます。煌びやかな言葉の連なりは音と絡み合って、聴き手を惑わせます。「光と闇が揺れる隙間」に潜り込み、終わらない夜の中で終わりに向けて進み続ける。どこにもたどり着かない閉塞感が漂う中、華美な言葉を積み上げた先に待っているのは崩落か、夢見た世界か。

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Written by fujiokashinya

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