TM NETWORK『QUIT30』[PART2]:New songs

fujiokashinya
5 min readOct 27, 2019

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TM NETWORK

TM NETWORKのアルバム『QUIT30』には、組曲「QUIT30」の他に、アルバムのために書き下ろされた新曲があります。組曲「QUIT30」がアルバムの軸となる一方で、それとは離れて独立した世界を描く曲であり、音の雰囲気も異なります。『QUIT30』を彩った新しい曲のカタログから、印象的な3曲をピックアップしてみましょう。

アルバムの冒頭に位置する「Alive」は、口ずさみやすいメロディ、軽やかなシーケンサーの音、駆け抜けるような勢いを感じさせるリズムが特徴的な曲です。J-POPの雛型と言うべきか、1980年代後半から1990年代にかけて成長したポップスを思わせます。

音の雰囲気や言葉のはめ方は1980年代、すなわちTM NETWORKの最初の十年に近いと言えるかもしれません。けれども、紛れもなく2010年代の曲であることを決定づけるのが、終盤に飛び出して曲の最後を飾るシンセサイザーのリフです。このリフはヨーロッパやアメリカのエレクトロニック・ミュージックに匹敵する中毒性をもちます。

アルバムの最後には、小室さんが音を選び直し、新たな音を加えた「Alive -TK Mix-」が収録されています。シンセサイザーのリフを中心に据えてキックの音を強めることで、オリジナルで断片的に見せていたエレクトロニック・ミュージックの要素を強めています。重さと厚みを増したキックの音が印象に残りますが、途中でキックがミュートされると、音が戻ってくるのが待ち遠しくて、再び鳴った瞬間の興奮が増幅します。シンセサイザーのリフはオリジナルよりも前に出てきて、強烈なインパクトを残します。

「STORY」は、アルバムの中で唯一の、木根さんが書いたバラードです。歌詞は、音楽とともに生きてきた仲間たちの思いを綴り、寄り添います。その言葉の連なりからはTM NETWORKの三人をイメージすることもできるし、あるいはもっと広い、彼らが出会ってきた多くの音楽仲間のネットワークとして捉えることもできます。

「STORY」の主役はメロディであり、小室さんのサウンドは助演です。メロディの良さを味わえるサウンドが構築されており、テンポが緩やかなので、特にリズムの重要性を実感できます。曲が重くならないように、かといって軽くならないように、バランスはリズムによって保たれています。メロディの流れを止めないように、けれどもさらりと流れていかないように。

小室さんが書く曲の間に木根さんの曲が収まることで、コントラストが生まれます。小室さんはさまざまなタイプの曲を書きますが、木根さんの曲は「キネバラ」と呼ばれるように、一定の役割を担い、大きく変わることはありません。これはデビュー当時から変わらないポジションです。木根さんが書いたメロディをウツが歌い、小室さんがアレンジして曲を完成させるキネバラは、30年間もの間変わらない三角形を描いて聴き手に届きます。変わり続けるのがTM NETWORKのアイデンティティである一方で、変わらない魅力も持ち続けている。そのひとつがキネバラなのです。

Naoto Kine

「Always be there」では、小室さんが書いた詞が印象に残りました。この曲を最初に聴いたとき、大切な人に向けて書いた手紙を読んでいるような気がしたものです。口に出すと照れてしまう、けれども決して美辞麗句ではない、相手に伝えたいことをシンプルに表現する言葉の数々。その言葉の連なりは心を激しく揺さぶるというよりは、そっと揺らします。

特に、♪思い出を敬う♪ という、思いも寄らない言葉の組み合わせが記憶に残りました。思い出に浸る、思い出を大事にする、思い出にすがる…。「思い出」という言葉が持つ力は強くて、意識が吸い寄せられ、場合によっては依存してしまいますが、「敬う」という言葉をつなげることで、少し離れたところから見ている雰囲気が生まれます。その存在を認めながら、そこに取り込まれていない。自分の一部であることを、過去の一部であることを自覚しながら、思い出に気持ちを寄せ、肯定します。

コーラスから始まり、コンガの音でシンプルにつくられたリズムが柔らかい印象を与えます。オルガンの音は聴き手を包み込むように響き、それでいてどこか冷静さを含む。クールに振る舞いながらも、優しすぎない優しさを感じさせます。曲の終盤でドラムが入ってくると、気持ちはぐっと盛り上がります。言葉が迫ってきて、静かにゆるやかに熱を帯びます。

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Written by fujiokashinya

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