TM NETWORK「QUIT30」:2014年のトライアングルを描き、「終わり」を起動したロック・スイート
2014年10月、TM NETWORKがアルバム『QUIT30』をリリースしました。表題曲の「QUIT30」はおよそ20分に渡るプログレの組曲です。八つの曲から構成されていて、曲ごとに音の世界が移り変わります。
小室さんがソフト・シンセを中心に構築したサウンドに、手練れのミュージシャンたち(ギター:Marty Friedman、ベース:美久月千晴、ドラムス:村石雅行)がそれぞれの音を重ねます。プログレらしくインストの占める割合が大きいなかで、ウツはリード・ボーカルで存在感を示し、それを木根さんがバッキング・ボーカルで支えます。
組曲「QUIT30」の扉を開け、その世界に聴き手を導く役割を担う曲は「Birth」です。弾けるようにして生まれた音は、ゆっくりと静かに広がり、メロディを形づくっていきます。独白を思わせるピアノの音に叙情的なギターの音が絡み、それらを縫うように響くベースは流麗な線を描き、すべての音をドラムが包みます。
続く「The Beginning Of The End」の魅力は、往年のプログレ・バンドを思わせる濃密な演奏であり、特にギターとシンセサイザーの奏でるフレーズが螺旋を描くさまが印象に残ります。淀みなく流れる音は反復しながら表情を変え、前半は重厚さが目立ち、後半になると視界がぱっと開けるような感覚を抱きます。そして最後にウツが口にした言葉は “Love”。その言葉を合図にして、バンドが生み出した余韻はすべて霧に呑み込まれ、「Mist」の哀愁を漂わせる音が響きます。
雰囲気は「Glow」によって一変します。寂寥感に包まれ、どこか冷めていて、沈みかけた感情が隙間から見え隠れする音です。しかしメランコリックな空気を断ち切るようにリズムが変わり、ハウス・ミュージックを思わせる「Loop Of The Life」にシフトします。その音を絡め取りながら、インストの「Entrance Of The Earth」がエレクトロニック・サウンドをループさせます。バンドの音を強調した組曲のなかで、EDMの要素が強く感じられるパートです。
スネアの音をトリガーにして再び世界は切り換わり、「The Beginning Of The End II」がリズミカルに響きます。ギターが高らかに鳴り、厚みのあるベースが曲を覆う。バンド・サウンドのなかで、三人の歌声が混ざり合います。三本の線で結ばれる三つの点、TM NETWORKの三人だけが描けるトライアングルです。
「The Beginning Of The End II」の後を次いで、「The Beginning Of The End III」が演奏されます。抑えられた気持ちを解放するかのように壮大に響き、組曲を締めくくるのに相応しい広がりを見せるインストです。ギターとストリングスの音が交錯し、その間でピアノの凛とした音が響きます。女性の声で織り上げたコーラスが、終幕に向かう音と絡み合います。
やがてバンドの演奏と声は徐々に小さくなり、組曲は終わりを告げます。音は消滅したのか、それとも再び目覚める日まで眠りについたのか。残された空白と静寂を見つめていると、組曲「QUIT30」が描いた音の世界は次第にとけて記憶に紛れていきます。
TM NETWORK QUIT30 SUITE: 1) BIRTH, 2) THE BEGINNING OF THE END, 3) MIST, 4) GLOW, 5) LOOP OF THE LIFE, 6) ENTRANCE OF THE EARTH, 7) THE BEGINNING OF THE END II, 8) THE BEGINNING OF THE END III