TM NETWORK『ORIGINAL SINGLE BACK TRACKS 1984-1999』:音の職人&エンターテイナーが見せるサウンド・マジック

fujiokashinya
Jun 18, 2019

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TM NETWORKのコンピレーション・アルバム『ORIGINAL SINGLE BACK TRACKS 1984-1999』が2012年にリリースされました。Epic Sony(現Epic Records Japan)およびTRUE KiSS DiSC時代に発表されたシングルA面およびB面のバック・トラックが収録されています。当初は3枚組のCDとしてリリースされましたが、現在はApple Musicなどのストリーミング・サービスで聴けます。

バック・トラックは「カラオケ」と「インストゥルメンタル」の2種類。「カラオケ」はウツのボーカルがミュートされており、コーラスは残されています。一方、「インストゥルメンタル」はサウンドだけで構成された音源です。シングルのB面に収録されていたインストゥルメンタルも入っていますが、多くが初出しの音源ですね。特にデビューした1984年から1987年、さらにTMNにリニューアルした1990年から1991年にかけてリリースされた曲のバック・トラックが聴けるのは貴重です。

リード・ボーカルがない状態で聴くと、新たな発見があることに驚き、感動しました。これまで意識しなかった音やメロディ、そしてコーラスに出会えたことが嬉しい。また、小室さんが構築した音のレイヤーや音の流れを存分に楽しむことができます。ギターの背後で鳴るベース、派手なシンセのフレーズを支えるように鳴っているホーン、ボーカルの後ろでリズムを刻むギター…次々と形を変えて披露される音の饗宴です。

インストを聴いてみたかった曲の筆頭が、ロックとハウス・ミュージックが溶け合う「RHYTHM RED BEAT BLACK」(1990年)です。ギターとシンセサイザーがユニゾンで奏でるテーマ・メロディ、嗤うように響くトーキング・モジュレーター、随所で炸裂するスクラッチ・ノイズ。頽廃的な色気を漂わせるテーマ・メロディには中毒性があり、ぐるぐるとループして快感を引き起こします。

「KISS YOU」(1987年)はロックとファンクがせめぎ合うギターが全体を引っ張り、ホーンが彩りを添えます。ミックスによってロックに寄ったりファンクに寄ったりとスタイルが変わるのも聴きどころであり、このアルバムでは、ChicのベーシストであるBernard Edwardsがプロデュースした「KISS YOU (KISS JAPAN)」(1989年)も聴くことができます。オリジナルと比べて、サウンドにおけるファンクやロック、エレクトロの成分比の違いを楽しむのもまた一興です。

TM NETWORKの大きな特徴のひとつは、木根さんを中心とした三人によるコーラスワークです。曲によってはメンバーが参加していなかったり、他のシンガーが加わったりしていますが、三人の織り成すハーモニーが多くの曲の魅力となっていることは疑いようもありません。特に、ダンス・ミュージックに傾倒する前の曲では、当時の空気を感じることができて好きですね。「クロコダイル・ラップ」(1984年)や「パノラマジック」(1984年)を聴くと、コーラスがTM NETWORKの基礎をつくってきた要素であることがよく分かります。

ギターの音が重く響く「FIGHTING」(1987年)、冬の名曲である「STILL LOVE HER」(1988年)、嵐のようなBPMのハード・ロック「TIME TO COUNT DOWN」(1990年)は、カラオケと表記されていますが、コーラスが入っていないのでインストゥルメンタルと言ってもいいでしょう。小室さんの音づくりを存分に楽しめます。TM NETWORKでは縁の下の力持ちであるベースやパーカッションの音にも注目です。「STILL LOVE HER」はフェイド・アウトせずに、ライブのように最後の音まで収録されています。これはかなり嬉しいことです。

このアルバムを聴いて印象が変わった曲もあります。例えば、「GIRL」(1986年)や「COME BACK TO ASIA」(1987年)。曲そのものはシンプルで、確かに派手ではないけれど、音がボーカルの裏で緻密に組み立てられていたことに気づきました。特にシンセサイザーが奏でるフレーズを単体で聴くと、ウツの歌声とは異なる哀愁を感じます。「GIRL」は2012年のライブで披露され、キックの音が存在感を放つEDMに変貌しました。改めて「GIRL」の音を聴くと、エレクトロニック・ミュージックの雰囲気を感じることができます。

他にもまだ印象が変わった曲、新しい発見を楽しめた曲があります。1993年にTM NETWORKを知ってから何度も何度も聴いて、ほとんどすべてを知っているつもりでしたが、まだ驚く余地があったことに驚きました。このアルバムが発表された2012年は数年ぶりに新曲「I am」がリリースされており、デビュー当時の音から現在の音をタイムマシンで巡るように聴いて、改めて「小室さんの本質は何十年も変わっていない」と思ったものです。小室さんは音の職人でありエンターテイナー。それは変わりません。

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Written by fujiokashinya

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