TM NETWORK『LIVE HISTORIA』:ライブ音源に刻まれたTM NETWORKのサウンド・ストーリー

fujiokashinya
Mar 1, 2022

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TM NETWORKのさまざまなライブ・テイクをまとめた二枚のアルバム、『LIVE HISTORIA T』『LIVE HISTORIA M』がリリースされました。EPIC/SONY(現EPIC Records Japan)におけるデビューから「終了」までの活動(1984~1994年)、avexで実施したプロジェクト(2012~2015年)のライブ音源を収録した作品です。同じ曲の録音時期が異なるテイクを含め、全47トラックを聴くことができます。

収録曲が発表されてから僕が最も楽しみにしていた曲が「RHYTHM RED BEAT BLACK」です。オリジナルはアルバム『RHYTHM RED』に収録されています。ロックを軸にしたアルバムにあってハウス・ミュージックの要素を含んだ異色の曲であり、踊るためにあるといっても過言ではありません。本作では、1990~1991年の〈RHYTHM RED TMN TOUR〉と2015年の〈TM NETWORK 30th FINAL〉でのパフォーマンスが選ばれました。

〈RHYTHM RED TMN TOUR〉の「RHYTHM RED BEAT BLACK」の音や構成は、オリジナルとVERSION 2.0(ハウス・ミュージックに寄せたリミックス)を混ぜています。とにかくリズムが良い。色気のあるドラムやベースがリズミカルに響いてダンサブルな音を生み出し、聴く人を虜にします。どの部分を切り取ってもリズムの心地よさが感じられますが、特に後半の長いインタールードでは、他のパートが引いてリズムが主体になり、その魅力がダイレクトに伝わるのではないでしょうか。そしてもちろんシンセサイザーもインパクトがあり、特にエンディングで鳴り響くYAMAHA EOSのシャープな音が記憶に刻み込まれます。

〈TM NETWORK 30th FINAL〉の「RHYTHM RED BEAT BLACK」では、Roland JD-XAの太い音とトーキング・モジュレーターで歪ませたギターの競演が光ります。JD-XAの太い音はサビ前やエンディングで縦横無尽に駆け巡り、強く印象に残ります。イントロをはじめ随所で活躍するトーキング・モジュレーターの独特な加工サウンドは、この曲の代名詞のひとつです。そして、両者が暴れるエンディングが終わると、打ち込みのリズムと薄いエレクトロニック・サウンドが残ります。凪が訪れたかのようです。静かな色気を漂わせる、このステージだけの心地よい音に包まれて曲は幕を閉じます。

さらに特筆すべきは1991~1992年の〈TOUR TMN EXPO〉で披露された曲です。終盤に強烈なシンセサイザー・プレイを畳みかける「JUST LIKE PARADISE」、「Happy Music」や「Work That Sucker To Death」などのボーカル・トラックをサンプリングした「DON’T LET ME CRY」、ラテン・パーカッションの熱い音が飛び出す「JEAN WAS LONELY」、イントロを伸ばしてハウス・ミュージック系の音やサンプリングを重ねた「LOVE TRAIN」。いずれもビデオ『TMN EXPO ARENA FINAL』で馴染みのある曲ですが、音が調整されたためか記憶で鳴っている音とは少し異なります。しかしその違和感は嫌いではなく、むしろ楽しめました。

他にも1988年の「COME ON LET’S DANCE」「KISS YOU」、1991年の「69/99」、1994年の「STILL LOVE HER」「DRAGON THE FESTIVAL」など、興味深いトラックが多くあります。本作で初めて聴いたライブ・テイクに感動したのはもちろんですが、過去のビデオやライブ盤で聴いたテイクも、音が良くなったことで新鮮な感動を連れてきました。また、デビュー当時のコンサート〈ELECTRIC PROPHET〉で披露された「ELECTRIC PROPHET」「TIMEMACHINE」「17 to 19」を聴くと、キャリア最初期のパフォーマンスに触れることができます。新人ならではの若々しさや試行錯誤が見える貴重なライブ音源です。

2012年以降のライブ・テイクは、1994年までとは異なり、僕も実際に会場で聴いた曲です。改めて聴くと、新しいプロジェクトをリアルタイムで体験できて嬉しかった記憶が蘇ります。2012年の「I am」「WE LOVE THE EARTH」、2013年の「HERE, THERE & EVERYWHERE」「LOVE TRAIN」、2014年の「金曜日のライオン」「KISS YOU」「CUBE」、2015年の「LOUD」「CHILDREN OF THE NEW CENTURY」というように、印象的な曲を挙げていけばキリがありません。EDMの要素を加えた曲も多く、例えば「GET WILD」がコンサートのたびにどのように更新されるのか楽しみにしていました。

特定のコンサートだけで聴ける音やフレーズが散りばめられた『LIVE HISTORIA』は、紛れもなく宝の山です。けれどもというべきか、だからこそというべきか、これからも変わる可能性を示しています。音の痕跡から浮かび上がるのは、常にそのときの音で過去の印象を刷新しようとするTM NETWORKの姿です。

その延長線上に、2021年10月から2022年2月にかけて公開された「How Do You Crash It?」シリーズが位置づけられます。サウンドは過去へのリスペクトを含みながらも大胆に更新されており、これぞ現在進行形で変わり続けるTM NETWORKだと思いました。『LIVE HISTORIA』を通して音の変遷を堪能しながら、「How Do You Crash It?」で現在のアクションをリアルタイムに体験し、そしてこの先の展開にも期待を寄せる。音のストーリーを綴るTM NETWORKの試みは今もなお歩みを止めず、僕らは新しいページをめくる幸運に恵まれています。

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Written by fujiokashinya

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