TM NETWORK「JUST ONE VICTORY」:奪われた音を取り戻し、解き放つロック・サウンド

fujiokashinya
Dec 8, 2024

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1988年にTM NETWORKがリリースしたアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』は、グループにおけるシンボリックな作品です。では、アルバムの代表曲といえばどの曲でしょうか。知名度で言うなら、映画の主題歌である「BEYOND THE TIME」や「SEVEN DAYS WAR」、「シティーハンター」のエンディング・テーマに使われた「STILL LOVE HER」、NHK紅白歌合戦で披露した「COME ON EVERYBODY」が挙げられます。メディアとの関わりが続いた時期を象徴する顔触れです。

CAROLという物語を軸にしたコンセプト・アルバムなので、ストーリーに絡む「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」や「CAROL (CAROL’S THEME I)」は核と言えます。しかしながら、CAROLに関する一連の曲を締めくくる「JUST ONE VICTORY ~たったひとつの勝利~」も外せません。

ギターやドラムを効かせたストレートなロック・サウンド。シンセサイザーやギターが奏でるメロディ、ウツの声が届ける歌メロは、どちらも明るく開放的で、爽快感があります。奪われた音を取り戻し、解き放つという物語のエンディングに相応しい曲です。物語の終幕とともに、僕らの心も一緒に解放されます。アルバムのオリジナル・バージョンではピアノのソロが最後を締め、僕らは穏やかな気持ちで曲を聴き終えます。

アルバムのリリース後には、オリジナルより音が厚くなった「JUST ONE VICTORY -REMIX VERSION-」がシングル・カットされました。シングルを下敷きにして若干の調整を加えたのが、1993年の『TMN CLASSIX II』に収録された「JUST ONE VICTORY -single 7' version-」です。特に注目したいのがリズムの重厚感。ベースやキックを強調して重みを出しながらも、さらに解放感が大きくなったのは、スネアの印象が強く残るからでしょう。イントロやインサートの「CHASE IN LABYRINTH」から戻るときなど、スネアの存在感に痺れます。

21世紀に入るとエレクトロに舵を切るシーンが見られます。2004年のDOUBLE-DECADEでは、ライブで「JUST ONE VICTORY -OFFENSIVE VERSION-」が披露されました。テンポアップしてトランスの音で固めたパフォーマンスであり、強いタッチのシンセサイザー・サウンドと強力な四つ打ちで攻めたスタイルです。また、2014年には音もボーカルも一新した「JUST ONE VICTORY 2014」が『DRESS2』に収録されました。EDMの音を使いつつ、ポップな雰囲気を絡ませたリメイクです。

2024年のYONMARUでも「JUST ONE VICTORY」はCAROLの曲群の最後を飾りました。印象を変えたのは、イントロの前や間奏部分に加わったエレクトロニック・サウンドです。ややダークな雰囲気の音が、従来とは違う印象をもたらしました。スネアの音も一層力強く響き、僕がライブで聴いたなかで最もボトムが厚いと感じたパフォーマンスです。

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