TM NETWORK How Do You Crash It? two

fujiokashinya
Dec 13, 2021

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木根さんがいうところの「『みっつでひとつ』の、新しい、僕らのストーリー」の二つ目が姿を見せます。TM NETWORKの新プロジェクト「How Do You Crash It?」が2021年10月に始まり、その第2弾である〈How Do You Crash It? two〉が12月に配信されました。披露される曲は何か、第1弾とどのようにリンクしているのか、第3弾を予告するものは何なのか。想像力を膨らませながら開演を待ち、そして幕が開くと目にするもの耳にするものすべてを記憶に刻みます。

瞳が捉えたのは一本のバトン。ロンドンかジャカルタか、人々が行き交い、生活する様子がいくつものモニターに映し出されます。それを見つめる潜伏者の手に握られているのは「TM NETWORK」と刻まれたバトンです。

青い光がステージを包み、「FOOL ON THE PLANET」で〈How Do You Crash It? two〉の幕が上がります。力強いリズムのなかで優しいメロディが舞う、ミディアム・テンポの曲です。小室さんが構築したエレクトロニック・サウンドに、木根さんの弾くアコースティック・ギターが混ざり、そしてウツの歌声は温かさや優しさも含みながら、クールに響きます。

鳴り響くWolfgang Amadeus Mozartの有名なメロディ。小室さんのキーボードと木根さんのアコースティック・ギターが「Sonata for Piano №11 K 331」を奏でます。そんなTM NETWORKの曲は「HUMAN SYSTEM」ただひとつです。歌メロの美しさは随一であり、ウツの甘い歌声を介して届けられると美しさに磨きがかかります。「Sonata for Piano №11 K 331」のメロディはエンディングで再び登場し、小室さんと木根さんで息を合わせて最後の音を奏でました。

ここでステージは冬の空気に満たされます。曲名や歌詞に留まらずメロディや歌にも冬を感じるバラードの「WINTER COMES AROUND」です。1988年12月にリリースされたアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』で聴くことができます。ライブで演奏される機会は少ないため、意外な選曲に驚き、感動しました。語りかけるようなウツの歌が印象に残ります。力強くて、美しくて、切ない。伴奏する木根さんのピアノはいつになく叙情的で、雄弁に語ります。木根さんの音を小室さんがソフト・シンセのストリングスで支えました。

寒さに凍りついた街並みから、また異なる雰囲気の冬の景色が目の前に浮かびます。星空のように光るステージのなか、明るくポップな、けれども哀愁を感じさせる音に切り換わり「HERE, THERE & EVERYWHERE」が演奏されます。柔らかなメロディが紡がれるポップ・ソングです。オリジナルのアレンジはホーンの音が強く印象に残りますが、このライブではエレクトロニック・サウンドとアコースティック・ギターで構築されました。♪I’m crying…♪ と歌うサビでは三人が声を重ね、TM NETWORKのトライアングルを見せます。

〈How Do You Crash It? one〉で披露された「How Crash?」の様子を映し出すスクリーンに、メッセージが刻まれます。キーワードは「分断」。分断を「看過するのは最大の過ち」と綴り、最後に「How do you crash it?」と結びます。

カメラがMONTAGEの前のモニターをとらえます。左半分にはMainStage、右半分にはNexus 3の画面。ステージでは小室さんがキーボードの音で唯一無二の音楽世界を構築します。Moog Oneを操って即興で音を変化させながら弾いていると、途中で「TIME TO COUNT DOWN」のメロディが飛び出します。その後も音は拡散と凝縮を繰り返し、ときに暴れ、ときに咆哮します。最後に小室さんがVirus TI2 Polarの鍵盤を叩くと、それを合図にしてステージの周囲に炎が吹き上がります。

映像は切り換わり、カメラが映すのはひとりの潜伏者です。その潜伏者はレンズに向かって、黒いスプレーを吹きかけます。黒く塗りつぶされたスクリーンの向こう側から、地球が姿を現わし、その上に何かのプログラム、数字の列が重なります。宇宙から俯瞰した地球の各地にノードが生まれ、互いに結びつき、生まれるネットワーク。

地球は砕け散り、その破片が漂うなか、メッセージが並びます。打ち込まれたのは「誰もが過ちを犯す。過ちは分断を生む」、「故に我々は過去と未来を見張らねばならない」といった言葉。スマートフォンらしきものに映し出された〈How Do You Crash It? one〉のセット・リストがスプレーで塗りつぶされます。

ステージには再びTM NETWORKの三人がそろいます。〈How Do You Crash It? two〉の前半はバラードやミディアム・テンポの曲でまとめられ、小室さんのソロを挟み、後半はアップテンポの曲を中心としたシングル曲が立て続けに披露されました。

まずは、2014年にリメイクされた音を下敷きにした「COME ON LET’S DANCE」です。この曲の最大の特徴ともいえるフレーズ、すなわち1986年のオリジナルから使われてきたフレーズは、新しいエレクトロニック・サウンドで奏でられ、随所で顔を出します。このフレーズを軸に、EDMらしいリズムが加わり、オリジナルとも2014リプロダクションとも異なるサウンドが生まれました。1986年のファンク、2014年のファンクとEDMのミックスを経て、2021年はEDMになったと思います。ダンス・ミュージックとして変化する様子が感じられる曲です。

最初の音が鳴った瞬間に記憶のデータベースと照合され、ほとんどの場合は曲名が思い浮かぶのですが、このときはデータベースが機能しません。少し経って奏でられたフレーズを聴いて、やっと「LOUD」に思い至りました。2012年には原型ができていて、2014年にシングルとしてリリースされた曲です。少し構成が変わっていて、さらに新しいフレーズも加わり、原曲のイメージを変えるアプローチがとられています。EDMに近づきながらも原曲のポップさを残し、イントロや間奏などで打ち込まれたフレーズが僕らの印象を刷新します。また、ウツの歌はオリジナルよりも丸みを帯びたというべきか、親しみやすくなった感があります。

ステージに満ちたエネルギーは途切れることなく、次の「LOVE TRAIN」がライブをさらに盛り上げます。1991年に発表されたオリジナルとは別にハウス・ミュージック系のリミックス(Club Mixやextended euro mix)が存在しており、それらを彷彿とさせる音です。もちろん同じではありません。EDMの成分を多く含んだ音は幾重にも重なっていて、それぞれの音を分解して聴きたくなります。また、原曲にはないサビ前のタメをつくり、エネルギーを凝縮して、そしてサビで解放します。サビに勢いがつき、よりドラマチックに響きました。

船の中で、少女はタブレットの映像を観ています。〈How Do You Crash It? one〉にも登場した少女です。タブレットが映すのは、冒頭で潜伏者のひとりが見つめていた人々の往来。このシンクロは何を意味しているのでしょうか。

木根さんのギターを合図に「BEYOND THE TIME」が始まり、〈How Do You Crash It? two〉を締めくくります。TM NETWORKの曲のなかでも知名度の高い曲のひとつであり、イントロやサビの歌メロが記憶に残っている人は少なくないはずです。どのライブでも大胆に改造されることはなく、オリジナルのイメージを色濃く残す傾向にあります。それでも、ひとつひとつの音色はライブのたびに新しくなり、その都度その美しさに感動します。終盤になると音がカット・アウトして、わずかな空白を挟み、再び光とともに音が戻ってきます。ここからエンディングにかけて、音が絡み合い、壮大に響き、ストーリーの終わりを鮮やかに演出します。

フードを目深にかぶった潜伏者が夜の片隅にたたずみます。一方で、少女はどこかを見つめています。言葉で語られたこと、言葉でないもので語られたこと、そして語られなかったことが混在するTM NETWORKの新しいストーリー。スクリーンは “to be continued” という言葉を残し、〈How Do You Crash It? two〉の幕が閉じました。

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