TM NETWORK How Do You Crash It? one

fujiokashinya
Oct 11, 2021

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「再起動」を告げるメッセージがネットワークを駆け巡ったのは2021年10月1日。TM NETWORKが再び動き出し、新しいストーリーが始まります。その幕開けとして、スタジオでのライブを収録した映像作品シリーズの第一弾、〈How Do You Crash It? one〉の配信が始まりました。とてもクリアに聞こえ、重なっていてもそれぞれの音の輪郭が見えやすくデザインされたサウンドだったと思います。

カメラがとらえたのはひとりの少女。手にしたスマートフォンには、一本のバトンが映し出されています。バトンには「TM NETWORK」と刻まれており、前回の活動で物語をつないだバトンが再び姿を見せました。部屋には数台のシンセサイザーが配置されており、操作される時を待つかのように、シンセサイザーのランプが明滅します。少女が鍵盤を押し込むと、それがトリガーだったのか、目の前のモニターにバトンが映し出されます。バトンはぐるぐると回り、やがてクラッシュして、きらきらした破片が画面いっぱいに広がります。

バトンの破片の向こうから聞こえてきたのは、「ELECTRIC PROPHET」のイントロです。グレーを基調とした衣装に身を包んだ三人が登場します。否応なしに記憶は巻き戻されますが、なぜならその衣装は2014年の〈TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end〉で使われたものだからです。それを再びまとうことは、物語の連続性を感じます。

ウツがマイクに手を添え、歌い始めます。キーは低めで、より重厚で、穏やかな歌声。親密な相手に語りかけるような歌い方と歌詞が特徴的な曲であり、心を満たしてくれます。音もまた美しく、小室さんが弾くソフト・シンセのストリングス系の音と木根さんのアコースティック・ギターが混ざり合い、心地よい音楽空間が目の前に広がります。

今回のステージには、三角形のかたちをしたLEDプレートが数十枚、天井から吊るされていて、上下動や明滅を繰り返します。いくつものトライアングルに囲まれるなかで、強烈なエレクトロニック・サウンドが響き、「I am」が始まります。2012年にリリースされた「I am」はそのときの活動再開を告げる曲として重要な役割を果たし、三角形は前回の活動でも重要なモチーフとされました。ここでもまた過去との連続性が見られます。

サウンドの方向性は2013年のリプロダクションを下敷きにしつつも、アップデートされ、厚みを増していました。ポップスにEDMを混ぜたというよりは、「EDMにポップスを少し加えた」という感じのバランスです。特にキックの音が重厚で、耳から身体に伝わり熱くさせる素晴らしいリズムに酔いました。

「I am」の最後の音が終わると、聴き慣れないメロディが聞こえます。「I am」に加えられた新しいエンディングのようにも思えましたが、どうやら別のものらしい。映像がスイッチして三人の姿をとらえると、衣装が変わっていることに気づきます。上を着替え、ゆったりとした白いシャツになりました。バトンが舞い、やがてメロディは形を持ち、10月1日に公開された新しいメロディが響き渡ります。新曲の「How Crash?」です。

伝えたいことがありすぎるのか、それらを伝えるには音符が足りないのか。「How Crash?」には、あふれそうなほどに言葉を詰め込んだ箇所があり、やけに印象に残りました。小室さんはMoog Oneでソロを弾き、これからさらに盛り上がっていくのかと思わせたところで曲は終わります。イントロやエンディングを長くするのがTM NETWORKですが、ここではその短さに意表を突かれました。このサイズをオリジナルとして、今後はリミックスやライブで遊ぶのかもしれません。リリースを期待しつつ、その変化も気になるところです。

TM NETWORK How Do You Crash It? one

ステージにひとり、木根さん(の姿をした潜伏者)がいて、おもむろに手を伸ばします。何度も手を差し出して、何かを呼んでいるように見えます。呼応して三角形のプレートが光り、やがて文字のかたちに光ります。2014年の〈TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30〉で使われた映像が逆再生で表示され、それを目にした僕らのなかでは、QUIT30の記憶が巻き戻されます。

暗闇に差し込む一筋の光を思わせる音。Virus TI Polarの太く厚い音で始まったのは「ACTION」です。全体の構成は2012年の〈TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-〉を踏襲していますが、音の雰囲気が変わりました。2012年では、イントロでVirus Indigo Redback 2を弾き、さらに当時は小室さんがEDMに傾倒する前でしたが、今回はEDMの要素を多く埋め込みます。加えて、何度かソロでMoog Oneを弾いてその音の素晴らしさを、そしてキーボード・プレーヤーとしての格好良さを示してくれました。最後は、イントロと同じVirus TI Polarで締めます。

シーンが変わり、「1/2の助走 ~Just For You And Me Now~」の優しいメロディがステージを包みます。木根さんがYAMAHA CPを弾き(音色はエレクトリック・ピアノ)、ウツがアコースティック・ギターを弾きます。1984年のデビュー時に制作されたバラードで、セット・リストに加えられたことに驚きました。ライブで披露されたのは1994年の〈TMN 4001 DAYS GROOVE〉以来でしょうか。ウツの歌声はとても瑞々しくて、その魅力を改めて感じられたし、木根さんが書くメロディとの親和性も高いことを再確認しました。

ステージが緑色のライトに照らされます。ミディアム・テンポで穏やかながらも、芯の太いエレクトロニック・サウンドが特徴の「GREEN DAYS」です。2004年の〈TM NETWORK DOUDLE-DECADE TOUR FINAL “NETWORK”〉で演奏された曲であり、2013年に「Green days 2013」として生まれ変わりました。今回のアレンジは後者を踏襲していますが、特筆すべきは、幾重にも重なるシンセサイザー・サウンドのなかでも、木根さんの弾くアコースティック・ギターが大きな存在感を放っていた点でしょう。

穏やかな空気を引き裂くように、Virus Indigo 2 Redbackが “Get wild and tough” のサンプリング・ボイスを響かせます。代表曲「GET WILD」が始まりますが、単に演奏するだけではありません。「GET WILD」の宿命ともいえる長尺のイントロがここでも姿を見せます。キックを強調し、オリジナルにはないシンセサイザーのフレーズを重ねる。このイントロだけで新しいEDMソングができるほど独立性の高い、そしてキャッチーなフレーズです。2014年に初めて加わったギターのカッティングを木根さんが披露し、音はますます加速します。

そしてオリジナルのイントロに接続し、ウツの歌が始まります。言葉がはっきりと響き、これまで聴いたライブ・テイクのなかで最も力強く、勢いを感じます。2番の歌の後、イントロで聴いたフレーズが登場し、EDMの世界にシームレスにつなぎます。そして、オリジナルの間奏が戻ってきて、ウツは最後のサビを歌います。エンディングでは小室さんはMoog Oneを弾き、これでもかと格好良さを見せつけます。ここに、2021モデルの「GET WILD」を見ました。

続いて鳴り響くアルペジエーターは、〈TM NETWORK 30th 1984~ the beginning of the end〉のラストを思わせます。やがて音が集まり、束になり、広がりを見せ、次の曲のイントロに接続しますが、この段階では何の曲なのか分かりません。新曲の可能性を感じつつも、最初に抱いた疑問は “Uh wow wow wow…” と響くコーラスで氷解します。導かれた答えは、「WE LOVE THE EARTH」です。

最初から最後までリミックスを聴いているかのようでした。歌はオリジナルに準拠していますが、音が奏でるメロディは新しく、インストとして聴いたらほとんど別の曲に聞こえるのではないでしょうか。音の違いだけではなく、キックやシンセサイザーのリフを強調したかと思えば、音を抜いてウツや木根さんの歌声を前に出すなど、強弱のつけ方も以前の、「WE LOVE THE EARTH」とは異なっていてとにかく新鮮でした。そして最後のサビからエンディングまでは、音を解放したかのように、EDMらしさが満ちます。踊れるラブソングは健在であり、むしろ色気が増しました。

〈How Do You Crash It? one〉のラストを飾った曲は「SEVEN DAYS WAR」です。小室さんはYAMAHA CPでピアノ音を出します。小室さんのピアノと、木根さんのアコースティック・ギター、そして重厚なリズム。ダンス・ミュージックと比べて優しく聞こえますが、穏やかさのなかに力強さを備える曲です。ウツの歌も、クールに、しかし熱く響きます。最後のサビでもピアノが唸りをあげ、アドリブで重ねるフレーズは心地よく、子供たちの歌を吹き込んだコーラスや力強さを増したリズムとともに曲を盛り上げます。

暗くなるステージとともに三人の姿は見えなくなり、カメラはどこかの海沿いの都市を映します。青空の下で、少女が顔を上げて笑顔を浮かべる。視線の先に小室さん(の姿をした潜伏者)がいて、左手を差し出しています。その手はバトンを受け取ろうとしているのでしょうか。少女の手を取り、次のステージに向かおうとしているのでしょうか。そしてスクリーンには “to be continued” という言葉が浮かび、〈How Do You Crash It? one〉の幕が閉じました。

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