TM NETWORK「HAPPINESS×3 LONELINESS×3」:ひとつのメロディは歌声とアレンジの違いで四つの世界に変わる

fujiokashinya
Sep 6, 2020

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ラテン・ミュージックを意識したアコースティック・ギターや、コンガ、カウベル、ティンバレスといったパーカッションの音が混ざり合い、哀愁漂うシンセサイザーの音が印象に残る。TM NETWORKのシングル「HAPPINESS×3 LONELINESS×3」がリリースされたのは1999年の12月。ベースやキックといったボトムは厚くて重みがあり、同年に発表した「GET WILD DECADE RUN」や「10 YEARS AFTER」を踏襲しています。歌は、舌がもつれそうになるほど言葉を詰め込み、言葉の奔流でスピード感を出しています。

「HAPPINESS×3 LONELINESS×3」はTM NETWORKの他に、Julio Iglesias Jr.Sheila E.王力宏(Wang LeeHom)が歌ったバージョンが存在します。Julio Iglesias Jr.は英語、Sheila E.はスペイン語、そして王力宏は中国語。歌詞を翻訳しただけではなく、譜割も言語に合うように変えられたり、新たなフレーズが追加されたりしました。

各バージョンではアレンジも異なっていて、いずれもSheila E.のパーカッションが入っているものの、ほとんど別の曲であり、個性的な四つの世界を楽しめます。ミュージック・ビデオはこの四つの音や歌をつなげ、各アーティストが入れ替わりに登場します。部分的ではありますが、四種類のオリジナリティを体験できる貴重な映像です。

Music video by TM NETWORK, Julio Iglesias Jr., SheilaE., and Wang LeeHom performing HAPPINESS×3 LONELINESS×3

オリジナルであるTM NETWORKのバージョンは、TM NETWORKの曲としてはかつてないほどにパーカッションの存在が大きくなっています。これほどまでにパーカッションを押し出すのは珍しいものの、熱さよりも切なさを感じさせるアレンジがTM NETWORKらしさを表わしています。同じ曲でも、Sheila E.やJulio Iglesias Jr.のバージョンでは熱く聞こえるのですが、それらと対比して聴くとTM NETWORKらしい哀愁が際立ちます。

言葉の乗せ方を変えるとメロディは異なる雰囲気をまといますが、言語が変わればさらに変化が生まれます。ウツが歌う日本語のバージョンは言葉をしっかり区切りますが、Julio Iglesias Jr.は色気のある声と絡みつくような歌い方で、流れるように言葉を走らせます。音符を足場にして次々とジャンプしていくイメージ。全体的にノリがよくて、エンディングではトランペットも加わり、明るく楽しいラテンの雰囲気を前面に押し出しています。

ラテン・サウンドはSheila E.のホーム・フィールドです。当然ながら、本人の叩くパーカッションが前に前に出ています。どれだけの音が同時に鳴っているんだろうと思うくらい、多彩な音が飛び出します。10年ほど経ってジャズを通してパーカッションに興味を持ったときに、このバージョンを改めて聴くと、新しい音に次々と出会いました。リリース当時は聞き逃していた音が、どんどん身体に入ってきたことを覚えています。カラフルでパーカッシブな音の競演が聴き手の心を熱くします。

中国語の歌を主体的に聴いたのは、王力宏が歌う「HAPPINESS×3 LONELINESS×3」が初めてでした。リズムはオリジナルよりも重くなって、本人が弾くバイオリンが重なり、そうしたサウンドに合わせて言葉が滑らかに流れていく。日本語よりも英語に近い言葉の乗せ方、流れ方といえます。加えて特徴的なのがエンディングです。このバージョンだけの歌メロが聴け、それはまさしく「泣きのメロディ」といえます。このメロディの印象で曲が終わるのもまた、他のバージョンと違っていて印象に残ります。

言葉の違いは往々にして壁になるわけですが、視点を変えれば新たな体験の扉になり得ます。各々が自分の声や音を使って同じメロディを料理するというのは、音楽に特化したワールドワイドな競演です。しかしながら、今やK-POPがBillboardチャートの常連になるなど、言語を横断する曲が世界を駆け巡るのは珍しくありません。「HAPPINESS×3 LONELINESS×3」の企画も、今であればK-POPアーティストにも声をかけたに違いありません。

1999年とは比べ物にならないほどに2020年のネットワークは拡張し、世界を駆け巡る音楽を聴く機会が増えています。それを楽しめるのも、ひとつには「HAPPINESS×3 LONELINESS×3」のコラボレーションを体験したからだろうと思います。懐かしいという意味ではなく、今の音楽を楽しめる、その起点として記憶に残り続ける曲です。

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Written by fujiokashinya

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