TM NETWORK『Gift for Fanks』:TM NETWORKのキャリア初期を支えた曲、躍進への道をたどるファースト・ベスト・アルバム

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1987年にTM NETWORKが初めてベスト・アルバムをリリースしました。タイトルは『Gift for Fanks』です。音楽的コンセプトとして立ち上げたFANKSというワードは、いつしかファンを表わす名称にもなりました。「GET WILD」のヒットに至るまで応援してくれたFANKS、そして新たに加わったFANKSに向けたギフト――それが本作です。

『Gift for Fanks』は当時の最新シングル「GET WILD」で幕を開けます。収録曲や曲順を決めたのはレコード会社のスタッフ。多くが一枚目~三枚目のアルバムから選ばれ、この年の2月にリリースされた四作目の曲は「SELF CONTROL」だけです。本作を聴いて小室さんは「ちゃんと作っておいてよかったな、と思います。昔のも聴けないんじゃなくて、方向性が少し違うだけでクオリティはさほど変わらない」と語り、TM NETWORKの音楽性については「方向はしっかりしていたと思います。ただ、いろんな所へ行ってきた、と」と自己評価しました(『キーボード・ランド』1987年9月号より)。さまざまなところに行った曲が一枚にまとまります。

特筆すべきは12インチ・シングルで発表した「YOUR SONG -“D” Mix-」と「DRAGON THE FESTIVAL -Zoo Mix-」と「COME ON LET’S DANCE -This is the FANKS DYNA-MIX-」がすべて収録されたことです。いずれもオリジナルや別バージョンが以前のアルバムで聴けますが、これらのリミックスが聴けるアルバムは長らく本作だけでした。後にシングル・コレクションが出て、今ではストリーミングで簡単にアクセスできるものの、当時この一枚で聴けたのは重要だったと思われます。実験的かつ挑戦的な音でしたが、踊れる音楽というその後の方向性につながった点でベスト盤に収まるべくして収まったといえます。

ひとつのライブを構成するかのようなセレクションです。TM NETWORKの代名詞となった「GET WILD」で華々しく始まり、「COME ON LET’S DANCE -This is the FANKS DYNA-MIX-」をはじめとした勢いのあるリミックスで序盤を盛り上げます。すると雰囲気を変え、前半の終わりを「1/2の助走」などバラードの連続でクールダウンさせます。後半に入り「RAINBOW RAINBOW」を皮切りにポップな曲で徐々にギアを上げ、やがて「NERVOUS」と「YOU CAN DANCE」というノリのいいダンス・ミュージックで駆け抜けると、もうひとつの代表曲「SELF CONTROL」で締める。この曲順のままセット・リストとなってステージで演奏されたとしても、ライブの流れが成立する顔触れです。

今日では純然たるベスト盤の重要度は低く、未発表曲やデモを聴くためのコレクターズ・アイテムとしてリリースされることが大半です。けれども、レコードやCDといった物理メディアが主流だった時代は、アーティストを知ってもアルバムをすぐに揃えられるわけではありません。そうしたときにベスト盤が一枚あれば、いくつかの時期をまたいで曲が聴けます。一方で、売れ始めたアーティストにとって、新しいファンをつなぎとめる役割としてベスト盤は重要でした。『Gift for Fanks』も例外ではなく、「GET WILD」でつかんだファンを固定化したいという意図は一曲目に持ってきたことから推測できます。ただ、そこから先はTM NETWORKのさまざまな顔を見せます。アップテンポの曲だけではなくバラードの魅力を伝える。シングルに加えてアルバム収録曲を紹介する。12インチ・シングルでの音楽的実験も提示する。本作はキャリア初期のTM NETWORKの足跡が刻まれたアルバムであり、そのなかには、ヒットを手繰り寄せた制作チームの戦略と自信も刻まれていたのではないでしょうか。

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fujiokashinya

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