TM NETWORK「DON’T LET ME CRY」:今までの自分たちを破壊して、新しい音楽体験を生み出す

fujiokashinya
Dec 26, 2022

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TM NETWORKのデビューから「TMN終了」までのDECADEを彩った曲は数え切れません。1987年のアルバム『Self Control』に収録された「DON’T LET ME CRY ~一千一秒物語~」も、そのうちの一曲です。発表当時のツアーや初の武道館公演から1994年のライブまで、幾度となくセット・リストに名を連ねました。リミックス・アルバムの『DRESS』ではJellybeanによるリミックスが聴けます。

ウツのボーカルが艶っぽく光る曲です。Aメロからもう色気に満ちていますが、それはサビで極まります。特にサビで印象に残るのが♪愛したい愛したい愛したい♪や♪愛せない愛せない愛せない♪といった言葉のリフレインです。立て続けに流れ込む言葉に心は奪われ、メロディが記憶に刻み込まれます。

当時、小室さんは「ベース・ラインが特徴。このベースとか、イントロのオーケストラ・ヒットは気に入っている」と語りました(『キーボード・ランド』1987年3月号)。イントロの音から受けるインパクトは大きく、その衝撃を感じたままウツの歌が始まります。AメロそしてBメロと色気のある歌声に翻弄され、やがてサビで歌メロと歌詞の奔流に身を任せる。流れるようなパスワークに心躍ります。

そうやって磨き上げられたフォーメーションも一新する時が来ます。TM NETWORKはライブで曲のアレンジを大胆に変えることがよくあり、そのパターンに含まれるのが、1991~1992年の全国ツアーで披露された「DON’T LET ME CRY」です。1992年のアリーナ・ツアー〈TOUR TMN EXPO FINAL CRAZY 4 YOU〉の音源が『LIVE HISTORIA』などのライブ音源集に収録されています。

このライブで披露された「DON’T LET ME CRY」は、大胆にテンポを落として音を変え、別の曲のボーカル・トラックをサンプリングして重ねています。The Blackbyrdsの「Happy Music」、Xavierの「Work That Sucker To Death」、Black Boxの「Ride On Time」(ボーカルの元ネタはLoleatta Hollowayの「Love Sensation」)などが組み込まれていて、ファンキーな歌声の数々がダンサブルな空気を生み出します。オリジナルはおろか、それまでのライブでのアレンジとも一線を画し、過去の印象を刷新したパフォーマンスです。

新しい音に作り変え、さらに他の曲のサンプリングを組み込む――それは、ほとんど破壊といえる行為です。当時の小室さんはステージでよくシンセサイザーを叩きつけていましたが、アレンジの面でも既存の曲すなわち今までの自分たちを破壊してきました。アグレッシブな音楽的変化を目の当たりにすることこそ、TM NETWORKが提供する音楽体験です。40年近い彼らのキャリアにおいて、そんな場面を何度見たことでしょうか。1992年の「DON’T LET ME CRY」にも、破壊によって刷新された音楽体験が記録されています。

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Written by fujiokashinya

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