TM NETWORK「COME ON LET’S DANCE」:FUNKのサウンドとPUNKの精神性を掲げ、FANSを誘い導くダンス・ミュージック

fujiokashinya
Mar 19, 2023

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1986年のTM NETWORKはファンキーなサウンドを掲げて、従来のスタイルとは異なる音楽表現を目指しました。このときに考案されたキーワードがFANKSです。FUNK、PUNK、FANSをミックスさせた造語であり、元来は音楽的なコンセプトを示す言葉でした。いつからかTM NETWORKのファンを表わす言葉となり、その呼称は現在でも使われています。

A quote from the interview with Tetsuya Komuro

FANKSを体現した曲のなかで、おそらく最も多くその要素が注入された曲が「COME ON LET’S DANCE」です。スピード感を一段も二段も上げるギター、身体を刺激するビートを叩き出すスネア、パワフルかつ美しいハーモニーを響かせるコーラス。間奏に差し込まれたアルトの演奏からは、ファンクの持つたくましさや色気が感じられます。

いくつものバージョンやライブ音源が残されていますが、12インチ・シングルとしてリリースされた「COME ON LET’S DANCE -This is the FANKS DYNA-MIX-」は聴き手を衝撃の渦に呑み込みます。特筆すべきはエンディングで披露されるアルトのソロでしょう。アルバム・ミックスでは渋く聴かせますが、このミックスではグイグイ攻めるダイナミックな演奏です。歌が終わった瞬間から他の音を食わんとするほど強烈な存在感を示します。曲を締めくくるどころか、もっと長く吹いてほしいと思わせる、聴き手の欲を煽る素晴らしいプレイを聴くことができます。

また、「COME ON LET’S DANCE」の持ち味は言葉とメロディが生むスリリングなスピード感です。言葉をメロディにのせるのに苦労したと小室さんは語りました。リズム優先で言葉を選ぶことも、日本語がはまらないからといって英語に変えることも避けたかったそうです。先行する音楽をそのまま取り入れるのではなく、オリジナリティを追求した結果の試行錯誤でした。

A quote from the interview with Tetsuya Komuro

そうした挑戦に見え隠れするのがPUNKの精神性です。殊に「ファンク、というと英語のイメージだけど、僕らは日本語でファンクを崩そうと思ったのね。そうじゃないとただのファンクの音になっちゃいますからね、真似は嫌だったから」(『キーボード・ランド』1986年7月号)という小室さんの言葉がすべてを物語ります。その結果は推して知るべし。デビュー当時から基盤にあったダンス・ミュージックへのアプローチが本格化し、TM NETWORKの軸となっていきます。

しかし、歌詞でファンクを崩すアプローチすら自ら破壊します。同時期の別のリミックス「COME ON LET’S DANCE -the saint mix-」では、音を薄くしつつ、ボーカル部分の多くをボーカル・トラックのサンプリングに置き換えました。歌を楽器の一部として扱うことで、歌詞もパーツの役割を演じます。このバージョンを含め、当時の小室さんはリミックスで大胆なサンプリングを実験的に試みました。少し先の未来に「GET WILD」で極まるサンプリング演奏の起点を、この時期のリミックスに見ることができます。

その後も装いを変え、時代ごとの音をまといます。1989年にNile Rodgersが手掛けたリミックス「COME ON LET’S DANCE (DANCE SUPREME)」ではSynclavierが使われており、当時の世界的な音楽トレンドに連なる音が聴けます。2014年には「COME ON LET’S DANCE 2014」というリメイクを発表し、2021~22年の〈TM NETWORK How Do You Crash It?〉では2014年のトラックを発展させてEDMテイストを一層強めました。曲の誕生から時が経っても、破壊と構築のPUNKの精神は健在といえます。

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Written by fujiokashinya

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