TM NETWORK『CHILDHOOD’S END』:ファンタジーの宇宙から離れ、音と言葉が描くリアリティの輪郭

fujiokashinya
Nov 21, 2022

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そこそこ長く音楽ファンを続けていると、新しい音楽を聴く一方で、自分の音楽ライブラリを見直すことがあります。普段は気に入った曲をプレイリストにまとめて聴きますが、時として過去の曲をアルバムで聴きたくなります。アルバムは発表当時の空気が詰め込まれたタイム・カプセルです。

タイム・カプセルのひとつを開けます。1985年にTM NETWORKが発表した『CHILDHOOD’S END』は、デビュー作に続く二枚目のアルバムです。前作で強調したシンセサイザー・ミュージックらしさやファンタジー色あふれる歌詞が抑えられ、生楽器の比率が高まったサウンドと日常の風景を切り取った歌詞を特徴としています。

A quote from the interview with Takashi Utsunomiya

本作の歌や音の特徴について『キーボード・ランド』の1985年8月号で言及されています。ウツが「今まではわりとTMはヴォーカルも楽器の一部という感じでしたけど、もうちょっと人間性が前に出てきた」と話したように、歌詞のリアリティを支える歌が吹き込まれています。また、シンセサイザー・ミュージックと言い切れるのか考えてしまうほど、シンセサイザーの印象があまり強くないサウンドです。それは、小室さんが語った「チャンネルで録った音をブースで拾ってそれを広いところで流す。もう1回それを録って、微妙な振動を出してます」というアプローチが関係していると思われます。無機質さを薄めてリアリティの色を濃くする音づくりだったのではないでしょうか。

改めて『CHILDHOOD’S END』を聴いて、印象に残る音はギターです。例えば「8月の長い夜」では、エレクトリック・ギターがこの曲の中心だといえるくらいに、存在感を示しています。2022年の〈TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days〉では、久しぶりにセット・リストに組み込まれました。このステージで使われたのはアコースティック・ギターで、木根さんが約30年前にL.A.で購入したものだそうです(『TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days AFTER PAMPHLET VOL. 1』より)。木根さんの弾くアコースティック・ギターはこのライブにおける重要な要素であり、その魅力は「8月の長い夜」でもダイレクトに届きました。

A quote from the interview with Tetsuya Komuro

また、アルバムの中盤から後半にかけて、パーカッショニストの叩く音と打ち込みで鳴らすパーカッション音源が交代で顔を出し、それらは時として混ざり合います。喧噪のなかで雨に濡れた時間が流れる「TIME」、ラテン・ミュージックの要素が強い「DRAGON THE FESTIVAL」、情熱的なのにどこか冷たい夜が描かれた「さよならの準備」、一転して爽やかな青春の風が吹く「INNOCENT BOY」、ふたりの未来を祝福するフラッグがはためく「FANTASTIC VISION」。日常の陰影が織り込まれたサウンドにパーカッションの音がフィットして、雰囲気を盛り上げたり、そっと寄り添ってみたりと、ひとつひとつの物語を彩ります。曲に込められたリアリティが、ぐっと増す気さえします。

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fujiokashinya

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