TM NETWORK「CAROL2014」:音が描くのは音が消えた世界、音を取り戻す少女の物語

fujiokashinya
Feb 16, 2025

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キャロルという名の少女が異世界を冒険する物語「CAROL」が生まれたのは1988年。その年の12月に、TM NETWORKは物語を核にしたアルバム『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』を発表しました。ストーリーの要である「音が消える」というエピソードはBeethovenの家を訪れた体験が基になったと、2024年に小室さんが明かしています(WIREDの対談より)。

物語に関する四曲は2014年にリメイクされ、組曲「CAROL2014」としてアルバム『QUIT30』に収録されました。ソフト・シンセの音を軸にしたサウンドのなかで、Marty Friedmanのギター、美久月千晴のベース、村石雅行のドラムが強烈な存在感を放ちます。

新旧のアレンジに共通するのは層を成す音の美しさです。時代も機材も音の種類も異なりますが、多様な音が張り巡らされ、聴くたびに新たな音に出会えます。歴史を積み重ねたロンドンのスタジオで、その空気を音と一緒に録ったのが1988年のCAROL。一方、CAROL2014ではソフト・シンセの音が鳴ります。シンセサイザーが他の音と溶け合う1988年、突出する2014年という違いはありますが、どちらも美しい層を描きます。バンドの演奏に重なるストリングスの音にも注目です。ソフト・シンセで鳴らしたCAROL2014に対し、オリジナルではAnne Dudleyの率いるオーケストラが曲に厚みを持たせました。どちらのバージョンでも輝きを放ちます。静謐な雰囲気を作り出す音であり、駆け抜ける風のように響く音であり、そしてキャロルの前に立ちはだかる巨大な壁になる音です。

物語のプロローグを綴る曲は「A Day In The Girl’s Life」です。ソフト・シンセの音が断片的に響き、それらはやがてカンヴァスを埋め、叙情的なギターや女性の声で織り上げたポエトリー・リーディングが多彩な色を乗せます。音に絡め取られ、僕らは物語の世界に落ちていく。そして最後の音からつながり、主人公キャロルの姿を歌うバラード「Carol (Carol’s theme I)」が始まります。ピアノとストリングスの音が彼女の輪郭を浮かび上がらせ、その表情や仕草まで思い浮かべられそうです。ベースは優しくも重厚に響き、ドラムとともに曲を力強く支えます。

組曲の後半は「In The Forest」から始まります。リズミカルで軽快な音は物語を前に前に進める推進力。何が待ち受けているか分からない暗い森の中でも、キャロルの心は光を放ちます。音が盗まれ、希望が奪われかけた世界。この世界を何も知らないキャロルは、持ち前の明るさを武器にして前に進みます。ここの住人に出会い、惨状を聞かされてもなお、胸に灯る火は消えません。その姿に励まされ、生き残ったものたちは音と希望を取り戻すために動き出します。

組曲は最後の曲である「Carol (Carol’s theme II)」を迎えます。最初は静謐な空気を漂わせ、巨大な敵に立ち向かうキャロルの姿を歌うバラードですが、やがて音が一転して厚くパワフルになります。とりわけ感情豊かに咆哮するギターを聴くと、この演出のためにMarty Friedmanが呼ばれたのではないかと思えてきます。激しく、輝きを放つ演奏を聴かせるギターの音とシンセサイザーの鋭角的な音が交錯し、戦いの様子を音で描きます。音の奔流が途絶えると、「In The Forest」の歌詞とメロディがバラードとして姿を見せます。柔らかな音と歌は、生き残った者たちの傷を癒すかのよう。空を覆う厚い雲が晴れ、光が差し込みます。

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Written by fujiokashinya

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