TM NETWORK「Always be there」:思い出を俯瞰して、気持ちを寄せて肯定する
TM NETWORKが2014年に発表したアルバム『QUIT30』は、全22曲で構成された二枚組の作品です。収録曲のひとつ、「Always be there」の特徴は日常の目線で綴った歌詞、ソフトな音で組み立てたアレンジ。アルバムの軸であるQUIT30組曲やCAROL2014組曲――マクロの視点で捉えた歌詞やファンタジーの世界、プログレの音――とは、立ち位置を異にします。
曲が始まるとコーラスが聴く人をやさしく包み、コンガの音で刻むリズムがあたたかみを与えます。オルガンはロックやジャズで攻撃的なサウンドを作り出しますが、この曲が求めたのは穏やかな音です。ちりばめられたエレクトロニック・サウンドも丸みを帯び、オルガンとともに歌声を支えます。雰囲気が変わるのは、リズムに変化が生まれる終盤です。オルガンに導かれてドラムが入ると音に厚みが出て、歌声が一際胸に迫ります。
やさしい音と声が小室さんの書いた歌詞を僕らに届けます。曲を初めて聴いたとき、大切な人に向けて書いた手紙を読んでいる気がしました。口に出すと照れてしまいそうな、けれども決して美辞麗句ではない、相手に伝えたいことをシンプルに表現する言葉の数々です。そっと心に触れ、ゆっくりと心を揺さぶる言葉が連なります。
とりわけ印象的だったのが♪思い出を敬う♪というフレーズです。この意外な言葉の組み合わせに、僕は初めて出会いました。思い出を大切にする、思い出に浸る――誰もが持っている宝物ですが、縋りつきたくなることもあるのが思い出です。けれども「敬う」という言葉をつなげると、一歩引いた客観性が生まれるのではないでしょうか。否定しないが、依存もしない。思い出に記された過去を俯瞰しながら、気持ちを寄せ、肯定します。