TM NETWORK「ACCIDENT」:20世紀に生まれたポップス、21世紀に遂げた音楽的前進
TM NETWORKの「ACCIDENT」は1985年に発表した三枚目のシングルであり、アルバム『CHILDHOOD’S END』のリード・トラックです。TM NETWORKにしてはストレートなポップスといえます。軸足をデビュー当時のSFから日常を感じるポップな路線に移した時期を象徴する曲です。
シンセサイザーの音は一歩引き、歌をセンターに据えて支え、引き立てる役割に徹します。主役を演じるウツの歌声はソフトで甘い。ポップスらしい音と親しみを覚えるメロディにボーカルが溶け込みます。曲の最後を飾る♪ききのがさないで 一度しか言えない 愛してるよ ONCE AGAIN♪のメロディや歌い方が素敵です。
ウツの自己分析によると、TM NETWORKのボーカルは楽器の一部とされてきたものの、いくつかのライブを通して変わりました。より人間っぽさが前に出るようになってきた、と。そうした時期に、ポップスに寄った曲が生まれます。ウツはアルバムでの歌い方について「僕のヴォーカルと曲がうまい具合に合った」とまとめました(『キーボード・ランド』1985年8月号より)。特定の曲を指してはいませんが、「ACCIDENT」も含まれると推察できます。
歌詞はリアリティを強く感じる言葉で編まれており、書いたのは松井五郎です。別れた恋人のことを思い出す情景が綴られています。ほろ苦く切なくて、純粋といえば純粋ですが、ある意味では未練がましく、情けないと表現することもできる。ぐしゃぐしゃと乱れる心模様は、スマートに振る舞いながらも思い出を引きずる人の姿、逃れられない心の鎖を描きます。
公開された映像を観る限り、初期のライブでも1994年の終了ライブでもオリジナルに沿った形で演奏されていたようです。リミックスの対象にもならず、ポップスの形態が完成形だと思ってきましたが、意外なことに、発表から約30年後の2014年に変わります。
「ACCIDENT 2014」はテンポを落とし、濃厚なwobble bassをはじめとしたエレクトロニック・サウンドを張り巡らせます。さらに♪How long do I have to live in the memory of you♪の使い方が変わりました。Bメロとサビのブリッジだったフレーズを間奏とエンディングに移動し、リフレインさせます。ボーカル部分の音はオリジナルを引き継いで明るい雰囲気ですが、このフレーズでは沈み込むような重厚さを感じました。
音楽的前進は止まりません。2024年のSTAND 3 FINALとYONMARUで「ACCIDENT」が披露されました。ウツがオリジナルに準拠した歌を徹底した(それはそれで驚くべきこと)一方で、サウンドは大胆に変化し、オリジナルはおろか2014年とも異なる角度からアプローチしています。
イントロの頭から飛び出す四分音符の四連打が衝撃的で、何度も繰り返すことで僕らの意識を奪いました。加えて、随所に重ねたパーカッシブな音がリズムを豊潤にします。元を知っているほどに驚き、圧倒され、印象を刷新される仕掛けです。驚くのは歴戦のFANKSだけではありません。オリジナルを知らない人が2024年のライブ音源を聴いたら、果たして1985年の曲だと思うでしょうか。それほどに劇的な変化を見せました。