Tetsuya Komuro『JAZZY TOKEN』:ピアノの音が刻む印、メロディが残す印象
記憶に新しく刻まれるピアノの音。アナログ盤で限定販売されていた小室哲哉のアルバム『JAZZY TOKEN』がストリーミングやダウンロードで聴けるようになりました。ピアノを中心にベースとドラムで組み立て、曲によってホーンやギターを入れたサウンドが聴ける一枚です。エレクトロニック・ミュージックとは異なる鍵盤の響きに魅了されます。
特に強く印象に残った曲は、アルバムの開幕を告げる「Traffic Jam」です。2021年11月のコンサート〈Tetsuya Komuro Rebooting 1.0〉のオープニングで初めて聴き、リフレインするピアノの音に引き込まれました。キャッチーなメロディを生み出すこの音を、ずっと聴いていたい。音の数が絞られていると、メロディの良さをダイレクトに味わえるものです。
アルバムには魅力的な曲が他にも収められています。「IBIZA Morning」はEDMの聖地であるIbizaを曲名に冠しながらも、対極にあるような音で構成されています。Ibizaといえども、爆音で盛り上がった夜が終われば穏やかな朝を迎えるのでしょう。「RIVE GAUCHE」はベースの上で絡み合うエレクトリック・ピアノとアコースティック・ピアノの音が印象的で、さらに途中から加わるシンセサイザーの音が鍵盤の共演を彩ります。
『JAZZY TOKEN』を聴きながら不思議に思ったのは、記憶の一角で鳴っていた音が呼び起こされることです。TM NETWORKの「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」を思い出したかと思えば、ソロの「South Beach Walk」を感じる瞬間もありました。メロディの端々やピアノの響きに、これまで小室さんが書いた曲の影が見えます。ふとした瞬間に重なるメロディの記憶は、長く聴き続けているTK music loverにとって特別なギフトに思えます。