Takashi Utsunomiya「discovery」:聴く人を優しく包む歌、ひとりの歌い手のシルエットを映す音

fujiokashinya
Jun 16, 2024

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ウツというシンガーのための曲――そう小室さんは語りました。宇都宮隆「discovery」は、Produced by Tetsuya Komuroを冠して1996年にリリースされたシングルです。どのオリジナル・アルバムにも収録されず、今はベスト・アルバム『TAKASHI UTSUNOMIYA THE BEST FILES』のストリーミングで聴くことができます。

あくまでもソロアーティスト同士の活動ではあるものの、1996年後半はTM NETWORKの三人のコラボレーションが活性化しました。木根さんと小室さんで「REMEMBER ME?」やアルバムを制作する。三人が集まって「DETOUR」を録音する。TM NETWORKの影が見えるこの流れにウツと小室さんの「discovery」も位置づけられます。

ウツの歌でメロディが紡がれ連なるほどに、僕らは心地よい歌の世界に沈みます。目の前の相手に花束を贈るかのようであり、メロディでラッピングした言葉を柔らかい歌声で届けます。対して、シンセサイザーの硬質な音で構築されたバックトラックは、表面的には無機質や冷たいといった印象を与えるかもしれません。けれども、ゆったりとしたテンポだからか、キャッチーな旋律だからか、曲を覆う空気は穏やかで親密。ボーカルから感じる温かみが強調され、聴く人を優しく包みます。

リリース当時、小室さんのコメントが掲載された宣伝用のリーフレットが店頭で配られました。興味深いのは「ガイドのメロディを歌っているときには自分とUTSUが重なりました」という一節です。そうした状態になると「その人の声しか聞こえない曲」そして「誰に提供してもいい曲ではなくて、その人のためだけの曲」になる、と。コンポーザーやプロデューサーとして多くの曲を生産した小室さんですが、こうしたアーティスティックな側面があることを忘れてはなりません。

〈Takashi Utsunomiya Tour 2021 U Mix〉で披露した「discovery」の映像が公開されています。全体的に薄めの音でウツが歌います。NAOTOのバイオリンとnishi-kenのピアノを中心にしたアレンジは、オリジナルに敬意を示しながら、異なる価値を曲に与えました。

ウツの歌と小室さんのメロディを引き立てながら、シングルでのアレンジとは異なる世界を描くパフォーマンスです。バイオリンの音が前に出ているため、曲に漂う哀愁が濃くなりました。哀愁は小室さんが書く曲の大きな特徴であり、それを表現できるボーカリストのひとりがウツです。そうして生まれた美しい哀愁をNAOTOとnishi-kenの音が膨らませます。静かな夜に目を閉じて耳を傾けたくなる素晴らしい演奏です。

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