「Say My Name」Afrojack and Chasner/Tom Staar Remix:歌声をマテリアルにした “重くて速い” サウンド・アプローチ
「Say My Name」はDavid Guetta、Bebe Rexha、J Balvinのコラボレーションで生まれた曲です。オリジナルがリリースされた後、複数のリミックスが発表されています。リミックスは1曲ずつ公開されており、Remixesという形態でまとめられていないため、これからまだ増えるかもしれません。
配信されているリミックスのうち、僕が惹かれたのはAfrojackとChasnerの連名で制作されたリミックス、そしてTom Staarが手掛けたリミックスです。いずれも特徴のあるトラック・メーカーであり、どちらのリミックスも「重くて速い」サウンド・アプローチが印象に残ります。しかしながらその中にも違いがあり、「Say My Name」という共通の材料から作られる別の料理を味わうことができます。
オリジナルはBebe RexhaのボーカルとJ Balvinのラップを軸にしており、それぞれの声やメロディの魅力を堪能できる曲です。音はふたりの声の特徴を活かすように、比較的シンプルに構築されています。
それに対して、Afrojack & Chasner Remixは、聴き手の意識をサウンドに引きつけるようなアレンジを特徴としています。Bebe Rexhaのボーカルから始まる点はオリジナルを踏襲しています。けれども、途中からテンポが上がって分厚いエレクトロニック・サウンドが重なると、オリジナルの仮面を脱ぎ捨てて、EDMという別の顔をさらします。
Bebe Rexhaの歌声は、音が爆発する前のブリッジの役割を担い、EDMらしい展開を演出します。また、J Balvinのラップは断片的に貼り付けられ、瞬間的に顔を出します。歌声は音を強調するためのマテリアルとして扱われている印象があります。
キックの音で魅せるのがTom Staar Remixです。そのリズムだけでも聴き続けられるほど、僕はTom Staarの四つ打ちが好きです。ボーカルやラップといった人間の声という要素をできる限り排除し、何ならウワモノのシンセサイザーの音すら除外して、ベースとキックとハイハットだけで聴きたい。
Tom Staar自身の曲や彼が関わった曲を聴くと、彼の持ち味である、腹にずしりと響くキックの音を聴くことができます。例えば、David Guetta「Don’t Leave Me Alone [feat. Anne-Marie]」やBlack Coffee and David Guetta「Drive [feat. Delilah Montagu]」のリミックス、Tom Staar and Eddie Thoneick「Otherside」などを聴くと、リズムをメインにしながらこんなにも魅せる展開を生み出せるものかと思わせます。
「Say My Name」のリミックスでは、Afrojack & Chasner Remix以上にボーカルとラップを削り取っています。キックをはじめとした音の印象が強くなり、歌の存在を抜いて音で感じる「Say My Name」となっています。フロア仕様ということもできますが、Tom Staarによる重くて速いリズムの魅力はヘッドフォンでも存分に感じ取れます。ポップスやロックではなかなか味わえないキックのアグレッシブな格好良さを、このリミックスで体感してもらいたいと思います。