quasimode TAKES ME TO A NEW JAZZ WORLD playlist
僕がquasimodeを知ったのは2008年です。あるイベントの出演者リストにquasimodeが載っていて興味を持ったのですが、イベントには行けなかったので、彼らの音楽を聴く機会はしばらく後になりました。そこに記された「クラブ・ジャズ」という言葉がずっと気になっていた僕は2009年のあるとき思い立ち、カバー・アルバム『mode of blue』を購入しました。ずっとクラブ・ジャズをエレクトロの一派だと思い込んでいた僕は、勘違いしたまま『mode of blue』を聴き始めます。
いつまで経ってもアルバムは僕の想像する音楽を再生せず、最後の曲が終わってようやく、クラブ・ジャズの「クラブ」はエレクトロの意味でのクラブ・ミュージックではないと把握しました。ハウスやテクノだけではなく、ジャズのレコードを流したり演奏したりするクラブもあると知ったのは後のことですが、これをきっかけに僕のなかの「ダンス・ミュージック」にジャズが加わります。しっとりと聴くだけがジャズのすべてではない。勘違いから始まったものの、これが「踊れるジャズ」を標榜したquasimodeとの出会いです。
Catch The Fact (oneself - LIKENESS, Finger Tip E.P., Four Pieces), The Man From Nagpur (The Land of Freedom), Jeannine (SOUNDS OF PEACE), Finger Tip (Finger Tip E.P., SOUNDS OF PEACE), Afrodisia (mode of blue), Ghana (mode of blue), All Is One (daybreak), Relight My Fire (daybreak), Lush Life (Magic Ensemble), So What (Whisky’s High), Slow Motion (Soul Cookin’), Hi-Tech Jazz (Hi-Tech Jazz)
2006年にデビューしたquasimodeは、2009年にBLUE NOTEレーベルに移籍してオリジナル・アルバム『daybreak』を発表しました。その後もコンスタントにアルバムを出すものの、2015年に活動を休止します。僕は何度もライブに足を運び、嬉しいことにメンバーと話をする機会にも恵まれました。クラブ・ジャズのムーブメントが大きくなっていく様子を肌で感じ、そのムーブメントを牽引するバンドの姿を目の当たりにしました。さまざまな角度から「踊れるジャズ」を表現するquasimodeの音楽をリアルタイムで楽しみました。
ジャズに対する僕のイメージを刷新し、ジャズの楽しみ方を教えてくれたquasimode。僕が好きなquasimodeの「踊れるジャズ」を12曲選びました。思い出に浸るだけではなく、今もなお聴いて心と身体が熱くなる曲です。
「Catch The Fact」はデビュー・アルバム『oneself - LIKENESS』の最初と最後に収録された曲です。ひとつの曲のイントロまたはエンディングを抜き出した感じです。のちに、テーマを加えて録音したフルレングスが発表されました。イントロからエンディングまでどこを聴いても美しいフレーズが響く「Catch The Fact」は、僕のiTunes Storeで再生回数のトップを走り続けました。2012年には、ベスト盤『Four Pieces』にて、フルレングスの再録版が発表されました。当時のライブでも披露され、ライブで聴けたことに無上の喜びを感じたことを覚えています。
2007年のアルバム『The Land of Freedom』の中心といえば「The Man From Nagpur」です。僕が観たライブのなかでは、最初や序盤に演奏される曲でしたし、ライブ盤でも序盤に演奏されていました。追い風のような力強さがあり、会場はヒートアップし、ライブに勢いがつきます。キラキラと光が弾けるように、音が軽快に跳ねる感じが心地好い。
『SOUNDS OF PEACE』では、Duke Pearsonの「Jeannine」がカバーされました。疾走するピアノが渦を巻き、聴き手を取り込みます。また、このアルバムに収録されている「Finger Tip」はロング・バージョンが「Finger Tip E.P.」で聴けます。先述の「Catch The Fact」が収録されたE.P.ということもあり、この時期のquasimodeに底知れぬ勢いを感じました。当時のライブを実際に体験していないものの、音を聴くだけでも勢いがあったことが想像できます。
『mode of blue』のなかで気に入った曲は「Afrodisia」と「Ghana」です。Kenny Dorhamの「Afrodisia」はライブでも何度か演奏され、重厚かつ軽快な音が楽しかった記憶があります。一方、Donald Byrdの「Ghana」はピアノの哀愁漂う美しい音が好きです。もっと深いところまで知りたくなって『Byrd In Flight』で原曲を聴くと、quasimodeによるカバーがさらに好きになりました。カバーの楽しみ方が広がった体験です。
僕がリアルタイムで聴いた初めてのオリジナル・アルバムが『daybreak』であり、初めて観たライブもこのアルバムのリリース・パーティーです。このアルバムの最初に収録されているのが「All Is One」。ピアノが奏でるイントロで会場は盛り上がります。また、その直後に入ってくるキックの音も印象に残っています。四つ打ちを感じたというべきか、ボトムを重厚に支える音にわくわくしました。
「Relight My Fire」は『daybreak』の中心的な曲で、シングルとしてもリリースされました。Dan Hartmanの曲のカバーであり、ボーカルは有坂美香がとりました。ライブではこの曲の前にU2の「Vertigo」を配し、「Vertigo」から「Relight My Fire」につなげる瞬間が盛り上がるというひとつのパターンを生み出しました。そして有坂美香は歌で盛り上げながら、メンバーにマイクを渡して歌わせたこともありました。ライブに「遊び」を入れ込んだ曲です。
2010年後半~2011年のquasimodeはポップスに大きく接近しました。ポップな色が濃くなったことで、僕らとバンドの距離が近づいたと思います。この時期で好きな曲が「Lush Life」と「So What」です。「Lush Life」はモントゥーノの部分が心地好くて、このセクションがずっと続けばいいのに思いながら毎回聴いています。ライブではコーラスが入ることもありました、一方、「So What」はいわずと知れたMiles Davisの曲であり、あえてホーンを入れず、四人の音で勝負したところが好きです。〈東京ジャズ〉でも演奏されました。
土岐麻子をボーカルに迎えた「Slow Motion」は、モータウンのリズムが心地好く、アルバム『Soul Cookin’』のなかでもポップさが際立ちます。軽快なイントロから音の世界に没入し、彼女の歌が聞こえると、ふわりと温かみが広がります。ストリングスを加えたquasimodeの演奏に溶け込みながら、歌声は少しずつ表情を変えます。目の前にスクリーンが広がり、穏やかで儚く切ない物語が映し出されます。
「Hi-Tech Jazz」はGARAXY 2 GARAXYの曲のカバーです。最初、『SPUNKY! — mixed by Takahiro “matzz” Matsuoka (quasimode)』に収録され、のちにイントロの加わったバージョンが12インチ盤としてリリースされました。今では、2017年に発売された『Past and Future』というコンピレーション盤で聴くことができます。イントロはドラムとパーカッションの演奏から始まり、このループする音がquasimodeのライブの始まりを想起させます。「どの曲が始まるんだろう?」と思わせてくれる、高揚感が生まれる一歩手前の期待。ライブの感動を思い出します。