quasimode『SOUL COOKIN’』[PART2]:Opening Time, Let’s Get Down Together, Febre Samba, Summer Madness, Another Sky
レコードに針が落とされ、溝を擦るノイズが耳に届く。quasimodeのアルバム『SOUL COOKIN’』は擬似的なノイズの「Opening Time」で幕を開けます。レコードを知らない世代にその感覚を味わってほしかったのか、バンドが属するクラブ・コミュニティを象徴する音か。そして飛び出すのは陽気なMCで、ラストで高らかに叫んだ言葉は “Yes, quasimode!”。ライブのオープニングで観客を煽るために、パーカッションのmatzzが叫ぶ言葉です。アクセルをぐっと踏み込んでアルバムが始まります。
ギロとコンガから始まる「Let’s Get Down Together」は明るい雰囲気を全面に押し出しており、よく晴れた日曜日の午前中というイメージが浮かびます。ラジオのスイッチを入れると、陽気な語りが聞こえる。その合間にかかる曲は安っぽくも高尚な感じでもなく、羽を休める大人の耳にすっと馴染む。熱くて濃いコーヒーを飲みながら、ゆるやかに時が過ぎる休日。そんな日常のひとコマを感じます。トロンボーンが渋い雰囲気を出し、陽気ななかにも耳を傾けたくなるポイントがいくつもあります。
「Febre Samba」を聴くと、どこかの国の街並みが目の前にぱっと広がります。石造りの街路。軽快に響くフェンダー・ローズは路地を軽やかに吹き抜ける風です。雑多で賑やかな界隈をさっと通り抜け、広場にたどり着く。広場の喧騒をするするとかき分け、人々の頬をなでて、あっという間に駆け抜けます。日常のざわめきや他愛もない会話が織りなす街の喧騒を音に置き換えたような曲です。イメージとしては、海外の街並みを紹介する番組が近い。カメラが旅人の視点で動き、人々の表情やそれぞれの営みを切り取っていきます。
クレイジーケンバンドの横山剣が参加した「Summer Madness」はシングルとアルバムでは少し雰囲気が違います。いってしまえばシングルでは能天気な印象が強かったのですが、アルバム・バージョンを聴いてみると、苦味みたいなものを感じます。大人の世界に足を踏み入れかけた若い男性の能天気さ、とでもいいましょうか。勢いはあるけれど、ダメージを受けると意外と傷が残る。須長和広の弾くエレクトリック・ベースが、若さと大人っぽさの入り混じった絶妙な雰囲気を出しています。まあ、能天気さというものは年をとってもあまり変わらない気もしますが。
曲名の「Another Sky」とサウンドからイメージしたのは秋の空。爽やかな快晴、うす曇りの気だるい空、あるいは冷たい雨を降らせる空。秋になると空を眺める機会が多くなるし、秋は空の広さを感じる季節でもあります。空はどこまでもつながっていて、空を通じていろんな人とつながっていると考えることもできます。また、今泉総之輔が叩くビートの印象が強い曲です。ドラムがエレクトリック・ベースのソロ演奏と絡むところでは、これまでにない魅力を感じました。
「Leaving Town」は、夕暮れの寂しい雰囲気が似合うインストゥルメンタルです。10月にもなると、昼間はそこそこ暖かいけれど、陽が傾くと途端に気温がすっと下がり、時として寒い風が吹きます。思わずジャケットの前をかきあわせるたくなるような風を感じる夕方、少し冷たい空気がまとわりつきます。平戸祐介によるフェンダー・ローズが切なさを醸して、その空気はホーン隊によって濃くなる。なかでも川崎太一朗の吹くフリューゲル・ホルンが切なさに拍車をかけます。