quasimode「Slow Motion」:軽やかなモータウン・サウンドに包まれ、温かくて切ない歌声が響く
Blue Note Recordsに移籍してからquasimodeのサウンドは次第にポップになり、間口が広くなっていきました。その傾向は2012年に発表したアルバム『SOUL COOKIN’』で極まります。ジャズで踊る楽しさを伝えるというバンドのテーマは維持しながら、ソウル・ミュージックのテイストが盛り込まれたアルバムです。
リーダーの平戸祐介によれば、本作のコンセプトは「ジャズ・ミーツ・ソウル」。そして自身が弾いたピアノの音を「ちょっと温かみがある、音像が丸い感じ」(『Keyboard Magazine』2013 WINTER No. 379)と表現しました。ジャズの明るくて親しみやすい部分が強調されていて、日常に溶け込むようなメロディやサウンドが楽しめます。
アルバムに収録された曲のうち、最初に「Slow Motion」を気に入りました。サウンドのテーマはソウル・ミュージックの一派であるモータウンです。聴き手の心をほぐす軽快な音に魅せられます。パーカッションの松岡 “matzz” 高廣は「ポップでキャッチーだけどジャズ色もしっかり残しつつ。さらにフェス映えするような感じも目指して作った」(HMV&BOOKS online)と語りました。四人が紡ぐピアノ、パーカッション、ベース、ドラムの音は総じて心地よく、ハッピーな雰囲気を醸すホーンや涼しげなストリングスの音が華を添えます。
「Slow Motion」の素晴らしさはサウンドだけではありません。軽快なイントロで音の世界に導かれ、土岐麻子のユニークな歌声が聞こえると、ふわりと温かみが広がります。quasimodeの多彩な演奏に溶け込みながら、少しずつ表情を変えて響く土岐麻子の歌声。寂しさを誘う歌詞と相俟って、歌による表情豊かな表現に胸が締め付けられ、曲の世界に魅了されます。