ORESAMA「恋のあじ -Dressup cover-」:ポップ・ミュージックの枠組みを越える音と声のコラージュ
ORESAMAの「Dressup cover」企画でリメイクされた曲のうち、半分ほどが2015年のアルバム『oresama』に収録された曲です。Dressup coverの特徴のひとつには、5年の経験をもとにアップデートされた音楽というものがあると思います。そのリストに加わったのが「恋のあじ -Dressup cover-」であり、これでDressup coverは9作目です。
「恋のあじ -Dressup cover-」では、静かに刻むギターの音が印象に残ります。その音はジャズを想起させます。オリジナルとの違いが大きいのはもちろんのこと、そもそもORESAMAの曲のなかでも珍しいアプローチです。やがて音が加わり、ボーカルが入ると、ファンクの色が強まりますが、音は再び薄くなります。
途中、薄絹を思わせる音に、ささやきのようなボーカルが重なります。ダンス・ミュージックでもバラードでもなく、あるいはポップスと捉えるのも違う気がします。ここまで来ると、どのジャンルとして捉えるべきか。ポップ・ミュージックの枠組みを越えて、現代アートのような趣きを見せます。美術館の一角に展示されたインスタレーション。このアレンジを聴いていると、現代アートの展覧会や芸術祭を思い出しました。
イメージするのは真夜中の静謐な時間。多くの人が眠りにつき、物音のしない夜の真っただ中で、頭のなかに鳴り響く音楽。身体を揺らす音楽でもなければ、眠りに誘う音楽でもない。その時間、その場所に自分が存在していることを自覚するための、船をそこにつなぎとめるアンカーのような音楽。その記憶すらも最後は曖昧になって夢に呑み込まれてしまいそう。不思議な肌触りのする音と歌声です。