LINKIN PARK『Hybrid Theory (20th Anniversary Edition)』:20年の時間を解体し、Hybrid Theoryの軌跡をたどる

fujiokashinya
Oct 27, 2020

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LINKIN PARKのデビュー・アルバム『Hybrid Theory』がリリースされたのが2000年10月。2回目のDECADEを記念して、アルバムの “20th Anniversary Edition” がリリースされました。収録曲のデモ音源やライブ音源、初期の未発表曲、改名前に制作した曲、前身バンドXeroで制作したデモ音源などが収録されています。

先行して「She Couldn’t」という未発表曲と「In The End」のデモ音源が公開され、その後すべての曲がリリースされました。これまで何かしらの形で公表されていたデモ音源もあれば、存在が噂されていた未発表曲もあり、さらに、耳聡いファンですら知らなかった音源も含まれているのではないでしょうか。キャリア初期、ひいてはバンド誕生の前まで時間を巻き戻し、『Hybrid Theory』の痕跡をたどります。

今作にまとめられたデモ音源は、マテリアルの状態に過ぎないものと、歌メロや音の大部分が固まっているものに分かれます。特に後者は、アルバムに収録された最終形と異なる部分から、曲が変化したプロセスを見ることができます。

個人的に待ち望んでいたのは「Points Of Authority」、「Forgotten」、「In The End」のデモ音源です。これらは僕が『Hybrid Theory』の中で最も好きな4曲なので(もう1曲は「Pushing Me Away」)、ほんの一部であっても、好きな曲の裏側を知れたことはとても嬉しい。さながら工場見学のような、曲が仕上がる前のレアな姿に感動します。

「Points Of Authority」は、“Forfeit the game…” から始まるMike Shinodaのラップを特徴とし、冒頭をはじめ、随所に登場します。この曲については、3つのデモ音源が公開されました。この曲名になってからのデモは2種類あり、加えて「Oh No」というタイトルが付けられた音源があります。

「Oh No」にはボーカルもラップも入っておらず、曲というよりはフレーズを少し長めに録音したマテリアルです。少なくともウワモノの音は最終形で使われているように思えず、そうと言われないとデモとは気づかなかったと思います。よく聴くと、途中のリズムが「Points Of Authority」を感じさせる…というていどの理解しか僕にはできません。具体的なフレーズというよりは、曲の土台が「Oh No」から踏襲されているように思います。

対して、他の2種類のデモ音源は最終形に近いものの、「リリックは同じだが構成が異なる」(Demo 1)と、「構成は同じだがリリックが異なる」(Demo 2)という違いがあります。最終形ではDemo 2の構成でDemo 1のリリックを使っており、両方のバージョンを混ぜて最終形が完成したとも考えられます。

最終形の構成(Verse・Pre-Chorus・Chorus)をもとにすると、Demo 1はChorusに当たる部分がありません。このバージョンだけのラップが加わっていることもあって、ヒップホップの色が濃いバージョンといえます。Demo 2では、“Forfeit the game” から後のリリックが異なっています。言葉のつなぎ方や切り方も変わり、それがラップに鋭さや勢いを与えています。各バージョンに見られた特徴は最終形でカットされましたが、いずれも魅力的で、どこを使っても格好良いのは流石です。

「Forgotten」はアルバム収録曲のなかで、最初期に制作されたデモ音源のひとつです。Xeroで制作したときのタイトルは「Rhinestone」。曲が “From top to bottom” から始まる、後半がMr. Hahnのスクラッチで始まるといった曲の構成は最終形と共通しており、違いといえば一部が長くなっている点です。

「Rhinestone」の段階では大部分の歌詞が異なっており、なかでも最終形で “At the core I’ve forgotten” であるところが “At the core of the rotten” となっています。この部分がChester Benningtonが加入してデモを録りなおしたときに変わり、曲名にも影響を与えたと思うと、化石を見つけたかのような興奮を覚えます。

そして、曲名が「Forgotten」になった後のデモ音源も聴けます。歌詞は最終形に近くなったものの、まだ完成していません。曲の構成は「Rhinestone」を引き継いでいますが、音がブラッシュアップされ、ボーカル表現やラップのクオリティも上がりました。

最終形と異なる部分のうち、特に印象に残るのがエンディングです。それまでの攻撃的で分厚い音から一転してシンプルで穏やかな音のなか、歌が静かに響きます。言葉がどこかに飲み込まれていくかのようにして、曲が終わります。最終形では最後までChesterが歌いますが、デモ音源では最後だけMikeが歌います。この部分がとても好きです。

代表曲「In The End」のデモ音源について、アレンジの方向性は最終形と同じですが、この曲の要諦であるリリックが異なります。特にリリックの冒頭 “One thing, I don’t know why. It doesn’t even matter how hard you try.” は何度聴いてた分からないほど耳にしているため、ここが違っていると違和感がとても大きくて驚いたのですが、しかし同時に新鮮でした。

曲の構成は、終盤の一部が長い点が最終形との違いです。“I’ve put my trust…” のリフレインが1回多くなり、Chesterは同じメロディを3回繰り返します。最初は音に溶け込みそうな雰囲気で歌い、次は声量を抑えつつも味わい深く歌う。そしてバンドの音とともに力強さを増して歌うと、そのまま最後のChorusに突入します。最終形と比べて、この部分の落差が大きいため、一層ドラマチックに響きます。デモ音源も最終形も甲乙つけがたく、どちらが良いか選ぶのは難しい。そんな嬉しい悩ましさを含め、素晴らしいものを見せてもらった喜びで満たされています。Celebrate the 20th anniversary of Hybrid Theory.

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Written by fujiokashinya

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