HYDE「DEPARTURES」:ふたつの音楽的才能がクロスして、唯一無二の世界を生み出す
globeのデビュー20周年を記念した企画盤『#globe20th -SPECIAL COVER BEST-』がリリースされたのは2015年。さまざまなアーティストがglobeの曲を歌い、演奏しました。オリジナルに敬意を示しつつも、どうやって個性を出すか。そこがカバーの難しさとおもしろさであり、実にカラフルな装いのアルバムとなりました。僕が興味を持った曲のひとつが「DEPARTURES」です。
「DEPARTURES」を歌ったボーカリストはHYDEです。HYDEの歌声はとても叙情的で、聴き手の心を抉る暴力的な美しさがあります。傷つけるという意味ではなく、「持っていかれる」感じといいましょうか。歌声ひとつで独自の世界を生み出し、聴き手を虜にする。特に終盤の ♪あなたが私を 選んでくれたから♪ という部分から最後のサビに突入するところは強烈なインパクトがあり、KEIKOが歌うオリジナルでもこのメロディに心をつかまれたものですが、HYDEのボーカルで聴くとまた新たな魅力が湧き上がります。
「DEPARTURES」のアレンジは小室さんが手掛けました。歌の背後で響くピアノの音が美しく、比較的穏やかな演奏なのに強烈な存在感を放ちます。リリース後のインタビューで小室さんはHYDEとの初めてのコラボレーションについて、かなり多くの時間を費やしたことで「次元の違うものがひとつ出来た」そして「間違いなくこのアルバムを牽引してくれた」と語りました。歌に魅了されたかと思えば、サウンドに釘付けになり、僕の心は忙しい。
小室哲哉とHYDE。この企画が実現したとき、意外な組み合わせに驚きました。思い出すのは、いつぞやのインタビューで小室さんが明かしていた話です。1990年代後半のマーケティング調査では、globeと競合していたバンドがL’Arc-en-Cielだったそうな。両者が互いに意識していたかどうかは知る由もありませんが、ともに時代のアイコンだったことは確かです。そんなふたつの音楽的才能がクロスするなんて、誰が想像できたのか。カバーという形で実現した両者のコラボレーション、その素晴らしさに嘆息するばかりです。