globe『FACES PLACES』[PART2]:言葉と音が共存共鳴して生み出す世界
日本版Rolling Stone誌のインタビューで、小室さんは『FACES PLACES』の頃の歌詞について語ったことがあります。globeをはじめ多くのアーティストの曲で、小室さんは対象を女性に設定し、それぞれが抱える孤独を言葉に置き換えます。この瞬間の少し先に待っている孤独、もうすぐやってくる孤独。それらの後姿を捉えたときに湧き上がる気持ちを描きます。
「FACE」の歌詞からはエッジ感と言うべきか、触れたら指先に傷がつくような、ある種の境界を感じます。一歩踏み出せば取り返しのつかない世界に行く、ポイント・オブ・ノー・リターンに立っている。そんな歌詞をロック・スタイルに満ちた音に乗せます。
♪顔と顔寄せ合い なぐさめあったらそれぞれ 玄関のドアを ひとりで開けよう♪という歌詞が生み出す世界は、とても奥行きがあって深くコミットしたくなるし、それでいて無音の世界で殴られたかのように、静かに衝撃を受けました。とてもビビッドな言葉の組み合わせです。蝋燭の火をそっと吹き消すような別れ方が描かれています。火が消える直前までは互いにすぐ近くにいるのに、火を吹き消した瞬間に、すべてがゼロになる。
女子高生、専門学校生、OLさん……そういう人たちもみんなで楽しく遊んだり食事したり飲んだりしても、最後の最後ひとりになった時に「何やってるんだろう、私?」みたいな気持をどこにぶつけたらいいのかっていうのは、ロックの60年代後半~70年代に入るあたりと変わらないんじゃないの?って。
A quote from the interview with Tetsuya Komuro
Rolling Stone Japan Edition Vol. 101
表題曲の「FACES PLACES」は、ささやくような歌から始まり、高度を上げてシャウトを超えて曲が崩壊する寸前まで到達する。上下動の幅が大きいダイナミックな展開に驚きます。一瞬で熱を帯びて、一気に冷たく凍る。繰り返されるサビメロからは狂気すら漂います。
♪One more drink 何か飲ませて 明日につながるように うまく酔わせて♪という一節に漂う退廃的な色合いは、遠くの国の出来事のように見えつつ、日本のどこかから染み出した声にも聞こえます。ショッキングな出来事が続いた1997年がモチーフなのでは、というのは評論家気取りでしょうか。ただ、世相を反映した歌詞と評するのは少し違う気がします。
さまざまな顔、さまざまな場所。「FACES PLACES」の歌詞は、小室さんのアンテナが感じ取ったものを言語化して、音に乗せて、声に混ぜた結果です。顔と場所を入れ換えれば、あらゆる人と時代に当てはまる言葉。20年以上経った今、僕らは何を感じるのか。昔の自分を重ねるのか、あるいは今の自分を重ねるのか。1997年に刻まれた言葉は、今もなお聴く人たちの記憶をかき乱すように絡み付きます。