Genesis「Domino」:異なるふたつの世界をつなぎ、聴き手の意識にひとつの世界を立ち上げる

fujiokashinya
Dec 14, 2023

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1986年にGenesisがリリースしたアルバム『Invisible Touch』には、表題曲をはじめ、1980年代らしいポップな曲が詰め込まれています。多くの人の記憶に残ったであろうヒット作です。プログレを聴くようになったとき、Genesisをよく知らずに手を出したのがこのアルバムなのですが、プログレとは縁遠いポップなサウンドに困惑したことを覚えています。

それから時間が経って1970年代のGenesisを知り、少し下地ができたところで『Invisible Touch』を聴きなおすと印象がかなり変わりました。今では、ポップなだけではない興味深い作品だと思います。そのなかで記憶に残った曲が、10分を超える「Domino」という曲です。「In The Glow Of The Night」と「The Last Domino」と題したふたつのセクションに分かれ、シングル・カットされたときは単一のトラックとして別々のシングルのB面に収録されました。

第一部の「In The Glow Of The Night」は、そこまで暗く重くないものの単に明るいとも言い切れない、明と暗の境界で双方を移ろう音です。音の密度が高く、ともすれば沈みそうな空気をシンセサイザーやドラムが中和します。陰鬱さというプログレの側面のひとつを1980年代の音で表現した感じでしょうか。音の端々に漂う哀愁は美しく、メロディはときにメランコリックで内省的な雰囲気を醸します。

バラード調で切々と歌い上げたかと思えば、祈りにも似た歌を断ち切るようにドラムが鳴り響く――「The Last Domino」の始まりです。テンポが上がり、不穏な空気を演出しつつも、キャッチーな感じが強まります。電子ドラムをはじめリズムが1980年代的らしいポップさを醸し、ギターやシンセサイザーの音も浮遊感を演出する。身体が軽くなるような、この時代特有の心地よさを存分に味わえるサウンドです。

「Domino」は異なるふたつの世界を接続する曲です。単体で聴くのと、ひとつの枠に収まるという意識で聴くのとでは、多少なりとも響き方が変わります。「In The Glow Of The Night」の雰囲気を意識に残したまま、「The Last Domino」のイントロを聴くと意表を突かれるし、最後まで聴くと「In The Glow Of The Night」に戻りたくなる。連なるドミノは円を描き、螺旋を描き、聴き手を呑み込みます。

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