Genesis『And Then There Were Three』:網目の細かい音で聴き手を絡め取るキーボード・ロック
プログレ・バンドの代表格としてGenesisは外せないとされますが、僕は1970年代のGenesisを聴く機会がなく、プログレとGenesisがうまく結びつかなかったのが正直なところです。けれども最近、プログレやハード・ロックを聴きなおしていると、Genesisを聴きたいという気持ちがついに湧き上がってきました。そして何枚か聴いてみて、最初に気に入ったアルバムが『And Then There Were Three』です。すでにPeter Gabrielはバンドを去り、Phil Collinsが中心となった後、さらにメンバーが絞られて三人体制になったときの作品です。
音は緻密に構築されつつも、その一方で、生まれたばかりのような熱を帯びています。クールでありながら、ときに壮大で、躍動感のあるサウンドが『And Then There Were Three』の特徴なのではないでしょうか。とりわけ好きなのがキーボードとドラムが交錯し、混ざり合うアレンジです。手数の多さに圧倒され、音が束になって迫ってくるイメージが浮かびます。
Phil Collinsが生み出す豊潤なリズムに、Tony Banksが弾くキーボードの多彩な音が絡む。その相互作用をダイレクトに味わえるのが、1曲目の「Down And Out」です。また、キーボード・サウンドがさまざまな表情を見せる「The Lady Lies」に心が熱くなります。特にピアノとドラムで盛り上げながらフェード・アウトするエンディングは絶品です。
加えて、アルバムの最後に収録された「Follow You Follow Me」も印象に残りました。他にもポップな曲が収録されていますが、この曲が最もポップだと思います。その大きな要因はPhil Collinsのボーカルでしょう。彼の歌声はポップな歌メロとの親和性が高い。ボーカルを包む音も柔らかく、穏やかで甘いともいえるこの曲の雰囲気が、アルバムをきれいに締め括ります。気持ちよく聴き終えることができて、そしてまた最初から聴きたくなります。