Chihiro Yamanaka「Carry On」:三つの点で描く音楽世界、ピアノを弾き続ける意志
2024年10月、山中千尋がアルバム『Carry On』をリリースしました。三曲のオリジナルを新たに制作し、Bud Powell、Henry Mancini、坂本龍一の曲をカバーした作品です。表題曲の「Carry On」はオリジナル曲のひとつであり、アルバムの幕を切って落とす曲でもあります。録音にはベースのYoshi Waki、ドラムのRussell Carterが参加しました。
メロディを紡ぐピアノの音は、比較的軽めのタッチのなかに太くて強い芯を感じます。軽やかにステップを踏みながらも、大地を蹴る感触が伝わる――そうしたイメージが浮かぶ音の運びです。しかしながら、孤高の音を響かせているわけではありません。ベースがピアノを支えて引き立て、ドラムは背中を押すようにしてピアノに推進力を与えます。中心に位置するのはピアノですが、ベースとドラムも並び立ち、ともに「Carry On」の世界をカンヴァスに描きます。
音楽の表現の自由だって平和や優しさ、尊敬、そして安心と健康なしには成り立ちません。誰もが一緒に生きられる世界をずっと守るために、小さな小さなネジとなって音楽をする、これがわたしの続けること。「Carry On」のくれた答えです。
山中千尋
「Carry On」すること
アルバム制作について記されたnoteを読むと、心身ともにハードな日々のなかで作り上げた作品であることが伝わります。自ら体験した困難、世の中が直面している困難。それらが渦巻く現実のなかで、山中さんは自分を「小さな小さなネジ」と表現します。音楽を続けること(carry on)を肯定し、曲名そしてアルバムのタイトルに刻みました。