BTS『BE』:ふたつの顔で世界を歌い、2020年の記憶を刻む
BTS(방탄소년단)のアルバム『BE』がリリースされました。夏に発表された「Dynamite」を含む8曲で構成されています。アレンジの種類や曲の配置に関してバランスが良く、僕にとっては聴きやすい作品です。
『BE』はリード・トラック「Life Goes On」から始まり、会話を録音したトラック「Skit」で折り返し、63rd Grammy AwardsのBest Pop Duo/Group Performanceにノミネートされた「Dynamite」で終わります。前半はミディアム・テンポのポップスやバラードで穏やかな空気を作り上げ、一転して後半では、ヒップホップやファンクといった身体に響く曲を前面に押し出す。前半と後半で雰囲気が変わるため、まるでレコードをひっくり返して聴いている感覚を抱きます。
「Life Goes On」は、聴き手の気持ちをケアするかのような歌い方が心に残ります。それを包み込むサウンドは心地好く、特にベースの音が好きです。また、2020年の状況を反映した歌詞や、ミュージック・ビデオで見せる彼らの表情が印象に残ります。2020年でなければ生まれなかった曲といえます。
オルガンの音が心地好いポップス「Fly To My Room」から、哀愁漂うアコースティック・ギターが寄り添うバラード「Blue & Grey」という流れのなかで、胸に沁みる歌が響き渡ります。前者は穏やかな陽だまりのような、後者は冷えた朝の空気のようなイメージが浮かびます。最初の3曲を続けて聴くと、ゆっくり時間をかけて心をほぐしてくれます。
メンバーの会話が流れる「Skit」を挟み、アルバムは後半へ。「Telepathy」、「Dis-ease」、「Stay」とアッパーな曲が続きます。軽やかに音が響く「Telepathy」が身体を疼かせ、アルバムの雰囲気もまた変わっていきます。
「Telepathy」の韓国語の曲名は「잠시」であり、これはmomentなどを意味するハングルです。このように韓国語と英語の曲名が乖離することは、BTSではときどき見られます。そこにも彼らの意図があることは明白で、それを歌詞などから推測するのもファンの楽しみなのかもしれません。また、「Dis-ease」という曲名は「病」と「easeの否定」のダブル・ミーニングなのでしょうか。
「Dis-ease」はヒップホップの色が濃く、同時に、絡み合うカラフルな音に魅せられます。ファンキーに刻むギター、切れ味鋭いスクラッチ・ノイズ、曲を彩るホーン。特に、ぐいぐい盛り上がる終盤の展開は素晴らしく、熱くさせてくれます。心を満たしていた音は、最後は簡素になり、余韻を味わうかのように響きます。音が消えても、もっともっと聴きたいと思わせる演奏です。
続く「Stay」の特徴はEDM。ポップスと混ざり合ってからのEDMというべきか、アンダーグラウンドから世界中に飛び出たEDMの要素が加わりのハイブリッド・スタイルを聴くことができます。ポップなメロディと気持ちを熱くさせるシンセサイザーの音が組み合って、追い風のように聴き手を包む。「Stay」で高揚した気分は、そのまま「Dynamite」に接続します。僕らはファンクの楽しさを存分に味わいながら、アルバムの最後を駆け抜けます。