AVICII『TIM』:EDM DECADEの最後に描かれたAVICIIのシルエットとエレクトロニック・ミュージックの未来 ◢ ◤

fujiokashinya
5 min readDec 30, 2019

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2019年6月、AVICIIのアルバム『TIM』が発表されました。制作中の曲を彼の仲間が仕上げ、さらにすでに完成していた曲を加えたラスト・アルバムです。Kristoffer FågelmarkAlbin NedlerCarl FalkVargas & LagolaVincent PontareSalem Al Fakir)など、AVICIIをよく知るプロデューサーたちが参加し、数々のシンガーが歌詞や歌を提供して、画竜点睛の如くアルバムを完成させました。

Aloe Blaccの叙情的なボーカルが胸に沁みる「SOS」、メランコリックなストリングスが心を震わせる「Tough Love」、リリースが待ち望まれていたChris Martinとの共作「Heaven」、「Sukiyaki(上を向いて歩こう)」をサンプリングした「Freak」、Imagine DragonsのDan Reynoldsがボーカルを入れた「Heart Upon My Sleeve」(オリジナルは『True』に収録されたインストゥルメンタル)など、注目すべきポイントがいくつもあります。EDMを軸にしつつ、ポップス、ヒップホップ、レゲエなどの要素も感じられ、さらに随所に張り巡らされたストリングスの響きが印象に残ります。

BillboardのディレクターであるKatie Bainは、EDM DECADEを総括した “The Top 100 Moments of the EDM Decade” という記事の最後でAVICIIに言及します。本作にも触れ、「『TIM』の成功は、AVICIIが遺した音楽や彼が特徴づけた(EDMの)10年が確かに存続していることを説明する」と書いています。

その前段として、Katie Bainは「AVICIIの死ほどEDM時代の衰退の始まりを表わす出来事はなかった」としていますが、『TIM』がリリースされたことは、衰退の裏付けというよりはむしろ反証となりました。そして、「AVICIIの音楽や彼の影響を受けた音が生き続けることは、ほとんど慰めにはならないとしても、明らかなことである」と結びます。

That Avicii’s music, and the sound he helped forge, will live forever is little consolation, but it remains undeniable nonetheless.

Katie Bain
Billboard: The Top 100 Moments of the EDM Decade

AVICIIが遺したものはEDMを導き、(形は変わるにしても)EDMが続くことを示唆します。もちろん未来のことは誰にも分かりません。しかしながらAVICIIの音楽には、未来を感じさせるもの、未来に受け継がれるものが少なからず含まれているのだと思います。

『TIM』の最後を飾るのは、Noonie Baoの歌が響く「Fades Away」です。彼女が歌うAVICIIの曲といえば、有名なのはNicky Romeroとのコラボレーションで生まれた「I Could Be The One」でしょう。幼ささえ感じる歌声は、どこか現実感がなく、聴き手をファンタジーの中に誘い込みます。

「Fades Away」におけるNoonie Baoのボーカルも幻想的な雰囲気を醸しています。イメージを言葉にするならば、真っ白な霧に包まれる感覚でしょうか。霧の中をさまよい、歌声に導かれて歩き続け、やがて霧が晴れたところで曲が終わります。

『TIM』が発表されてから少し未来の話。2019年12月に、多くのミュージシャンやゲストのシンガーを集めて、〈AVICII TRIBUTE CONCERT: IN LOVING MEMORY OF TIM BERGLING〉がストックホルムで開催されました。このステージで「Fades Away」を歌ったのがMishCattです。

MishCattのボーカルを録音した音源もストリーミング・サービスで配信されています。こちらのバージョンでは、むしろ実体があるというべきか、リアルな肌触りを感じます。歌声の違いが異なる印象を生み、そしてイメージする世界もまた変わります。『TIM』というアルバムは、MishCattの歌声も含めて、記憶にとどめておきたい作品です。

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Written by fujiokashinya

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