Ado「クラクラ」:歌と音が結託して聴く人をワンダーランドに閉じ込める

fujiokashinya
Sep 22, 2024

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アニメ『SPY×FAMILY』の劇伴はジャズやファンクの要素が盛り込まれ、クールな雰囲気と陽気なコメディの落差を音楽でも表現します。加えて主題歌も素晴らしく、いずれもカラーは違えど物語の世界にマッチしています。特筆すべきは、Adoが歌うSeason 2オープニング・テーマの「クラクラ」です。アニメ映像のインパクトと相俟ってハートを撃ち抜かれました。

くるくると変わるメロディに合わせ、Adoのボーカルも表情を変えます。斜に構えたクールな歌声。熱を帯びてストレートに響く歌声。ファルセットを効かせたかと思えば低音で挑みかかる歌声。モノローグのように淡々とした歌声。舌がもつれそうな早口で言葉を刻む歌声。ダイナミックな緩急のボーカル表現に頭が朦朧として、現実感は遠くに吹き飛びます。

meiyoが書いたメロディはどこを切り取っても魅力的で、周到に張り巡らされたトラップのよう。とりわけサビメロがキャッチーで美しく、聴く人を魅了の沼に突き落とします。♪正しい間違いが不安定で♪のメロディ・ラインがとても好きです。流線型を描くメロディは僕らの心に忍び込み、身体中に染み込む。

手練れのミュージシャンによる演奏がボーカルとのシナジーを生みます。アレンジを担当したのは菅野よう子と彼女の率いるバンドSEATBELTSです。唯一無二の音楽世界、目くるめく展開のアンサンブル。ドラムとベースで構築する強烈なリズムの虜になり、ホーン・セクションのファンキーな音の群れに酔います。

最初と最後で曲を挟む♪Question 大胆に演じて♪のフレーズも素晴らしい。アニメのオープニング映像でいえば、フォージャー家が並んで歩くところです。イントロで心をつかみ、エンディングで飢餓感を煽り、僕らを支配して音楽世界に閉じ込めます。曲は終わりません。もう一度「クラクラ」を再生します。終わらないスパイラルに呑み込まれ、音が声が渦巻く世界に身を任せます。

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Written by fujiokashinya

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