TM NETWORK『TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM』:2021の再起動をアップデート、2022の記憶を収集したintelligence Days

fujiokashinya
Jan 1, 2023

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TM NETWORKは2021年の〈TM NETWORK How Do You Crash It?〉で再起動すると、2022年に次のプログラムを起動させます。それは新曲「Please Heal The World」の公開と〈TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days〉の実施です。そして2022年の総括として、ツアーの最終公演を収録した『TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM』がリリースされました。

サウンドは〈TM NETWORK How Do You Crash It?〉を下敷きにしながら多くの点で更新されました。ツアー終盤に、小室さんは「常にアップデートされたTMの音楽を届けないといけない」と述べています(『TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days AFTER PAMPHLET VOL. 2』)。自らの過去を継承しつつも、破壊するときは大胆に破壊して更新を続けるのがTM NETWORKらしさであり、そのスタイルは2022年のライブでも健在でした。

TM NETWORK TOUR 2022 “FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM (Trailer): BE TOGETHER, GET WILD, SELF CONTROL, KISS YOU, TIME TO COUNT DOWN

アップデートされたTM NETWORKの姿は随所に見られました。「あの夏を忘れない」では強調されたベースが濃厚な色気を放ち、シンセサイザーの音が中毒性の高いループで観客を呑み込みます。2021年の再起動の嚆矢となった「How Crash?」は、後に制作されたスタジオ録音を使い、音に厚みを出していました。また、オルガン系の音が効果的に使われていたことも見逃せません。例えば、前回のマイナー系のアプローチを踏襲した「WE LOVE THE EARTH」では、哀愁の濃度がぐっと高まりました。

生ドラムとパーカッションを重ねたサウンドのなかでもエレクトロニック・ミュージックの魅力が存分に伝わるのは、そこにTM NETWORKのコアがあるからです。「KISS YOU」「GET WILD」「SELF CONTROL」「TIME TO COUNT DOWN」などで聴ける新しいフレーズがそれを証明していました。2022年に生み出されたメロディやサウンドにハートが射抜かれます。

TM NETWORKは休眠と覚醒を繰り返しており、2012年の再始動も強く印象に残っています。そのときに新曲として発表された「I am」は、TM NETWORKの新しいアンセム的なポジションを得た曲です。ライブでは三人が歌声を重ねるシーンが多く見られます。発表からDECADEを積み上げたこのライブでも、歌声のトライアングルが輪郭を露わにしました。

昨今は一般のリスナーも耳が肥えてきたので、常にアップデートされたTMの音楽を届けないといけない。ライブを見れたということだけでなく、実際に音楽を聴いたらちゃんと作り込まれていた、というところまで持っていかないと、この時代に生き残るのは難しいと思います。僕らのように長く続けているアーティストでも、アップデートした姿を見せられるかが鍵になってくると思っています。 小室哲哉 『TM NETWORK TOUR 2022 FANKS intelligence Days AFTER PAMPHLET VOL. 2』
A quote from the interview with Tetsuya Komuro

音と同期してステージに刺さる光のライン、スクリーンを埋め尽くす幾何学模様の群れ。舞台や映像の演出は、具体的なものを提示する場面もありましたが、総じて抽象的でした。なかでも印象的だったのが「Dystopia」と題したインストです。ノイジーで重厚なサウンドとともに、ヒトらしきものが歩くアニメーションが流れました。迷いながら歩く姿か、止まれない行進か。無機質な眼は何を映しているのか読み取れず、身体は処理落ちのように歪な動きを繰り返します。

特定のメッセージを明示的に伝えることは避けて、あくまでも示唆的に、抽象度の高いマテリアルでライブを構成したのではないでしょうか。2022年というタイミングで、この音と光と映像に向かい合ったときに僕らが感じること、感じたことを表現する言葉。それらを収集し、記録することも “intelligence Days” の意味に含まれていたのかもしれません。

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fujiokashinya

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