藍井エイル『KALEIDOSCOPE』:形を変える光の欠片に誘われ、いくつもの音楽世界を覗き込む
新作のリリースが予告されたのは、2022年11月に開催された〈Eir Aoi 10th Anniversary Live 2022 ~KALEIDOSCOPE~ History of 2011–2022〉でのことです。それから二ヶ月が経った2023年1月、藍井エイルのアルバム『KALEIDOSCOPE』が届きました。前作『FRAGMENT』から4年近いインターバルを経て発表された作品です。
本作には、『FRAGMENT』のツアー中に配信された「月を追う真夜中」から、2022年の最新作「心臓」までのシングルが収録されています。収録曲の顔ぶれが2019年のシングルにまで遡るということは、ツアー中止を余儀なくされた2020年など、音楽活動が制限された期間を含むことを意味します。4年というインターバルは、その間に起こった出来事を否応なしに想起させますが、一方でシングルで披露してきた音楽表現がいかに多彩かを感じさせてくれます。
そこに新たな彩りを加えるのがいくつかの新曲です。冒頭に配置された「Kaleidoscope」は、音のピースが少しずつ集まっていくインストゥルメンタルであり、アルバムの序曲として聴き手を導きます。万華鏡を覗き込み、次々と移り変わる世界に迷い込む――幻想的な雰囲気を醸す音に囲まれて、気づけばエイルの音楽世界が目の前に開けます。
歌モノの新曲は4曲です。「ANSWER」は、静謐なピアノを従え、感情を抑えた歌で始まります。雰囲気が一変してギター・ロックが曲を支配すると、ボーカルもまた表情を変えてエモーショナルになります。なかでも特に好きなフレーズが、サビの最後を飾る♪Here is the ANSWER♪です。このフレーズが飛び出すと、ボルテージは一気に上がります。
ミディアム・テンポのラブソングである「ロゼ」で響く歌声は、切々としていて胸を打ちます。あたたかいとも強いとも感じられる歌声ですが、それらを濃厚な哀愁が包み、切なさという色に染め上げています。あふれ出すように流れる多くの言葉は、行き場を失った鳥の群れのようです。過去には戻れず、さりとて未来にも行けない。どこに向かうのか分からない言葉が音のなかで羽ばたきます。
Cö shu Nieの中村未来が提供した「Campanula」は、本作にも収録されているシングル「PHOENIX PRAYER」に続く、Cö shu Nieとのコラボレーション第二弾です。野性的なベースの音を軸にした重厚なロック・サウンドが響きます。サイケデリックな雰囲気を醸し、ときにスモーキーな質感も見せるボーカルは、アルバムで特異な存在であり、とりわけ強く印象に残ります。
『KALEIDOSCOPE』の最後を飾る曲は「YeLL」です。よく晴れて青空が広がるイメージが浮かびます。メロディも歌声もきらきらと輝き、その明るさが心地よいポップな曲です。タイトルどおり、相手の背中をぐっと押すエネルギーに満ちています。初夏の風を思わせる爽やかな歌声に誘われて、うつむきがちな顔は前を、そして上を向きます。