藍井エイル『FRAGMENT』[PART2]:グローアップ/螺旋世界/パズルテレパシー
アルバム『FRAGMENT』ではこれまでになかったアプローチの曲が聴けるため、藍井エイルの音楽の新しい表情をいくつも見ることができます。そのひとつが「グローアップ」です。ギターの音が刺々しく、触れたら怪我をしそうな尖った感じが出ています。とはいえノリが良くて、その意味ではとてもポップです。
思春期の反発と本音を交錯させた歌詞が綴られています。反抗したい気持ちと素直になりたい気持ちがぶつかり、葛藤し、右へ左へと移ろう。ラップというわけではないのですが、言葉を詰め込んで、相手に言葉を投げつけるようなボーカルになっています。遊び心に満ちた曲です。
がらりと雰囲気が変わり、重く沈み込むようなギターの音で「螺旋世界」が始まります。エンディングまで渦巻く音のループに身を任せてみましょう。ギターとピアノが入れ替わるようにして存在感を放ち、曲を引っ張ります。特に、イントロやエンディングでループする濃密なギターの音、最後の間奏で披露される流麗なピアノの音に心が震えました。
エレクトリック・ギターやピアノの印象が強いものの、裏で鳴るアコースティック・ギターもいい味を出しています。表には出てこないものの、エレクトリック・ギターの後ろからパーカッションの音も聞こえる。色気を出しながらボトムを支えるベースも実に心地好い。じっくり聴いて奥の方まで音を感じると、多層的に構成されており、その重なりが曲に厚みを持たせていることが分かります。
「螺旋世界」では、ボーカルがまとう空気もサウンドと一体化しています。ピアノが奏でるフレーズはジャズを思わせますが、それに引き寄せられたのか、歌声がメランコリックな響きを漂わせます。哀愁や陰鬱な空気が混ざって、藍と黒のグラデーションとでもいうべき色が見えます。
イメージの中で、ぐるぐると回り続けるスパイラルが浮かびます。綴られた言葉から思い浮かぶのは、自分の力ではどうにもできない大きなものに抗いながら、翻弄されるひとりの人間の姿です。その渦中で見えたもの。伸ばした手に触れたもの。それを手にして、螺旋階段を歩くように生きる先に出会うものとは。
「パズルテレパシー」は、リズムの跳ねる感じが足取りを軽くしてくれます。そしてポップでありながらも、どこかつかみどころがない曲です。底抜けに明るいというわけでも、暗く沈んでいるというわけでもない。「ポップだけどもひねりが効いている」という特徴は、『FRAGMENT』の随所に見られますね。
ボーカルの雰囲気が独特なのも「パズルテレパシー」のポイントだと思いました。全体的に低めといえるかもしれません。藍井エイルの肩書きのように使われるハイトーンボイスとは異なり、ややハスキーで、声の端々に艶っぽい響きを感じます。感情が迸るエモ系ロックのボーカルも好きですが、『FRAGMENT』ではそのカテゴリーを越えるボーカルも聴けて、そして聴き応えがあります。