藍井エイル『FRAGMENT』:明るく咲いた歌声、拾い集めたカケラ、浮かび上がる新しい道

fujiokashinya
6 min readApr 22, 2019

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Eir Aoi FRAGMENT

2019年4月、藍井エイルのアルバム『FRAGMENT』がリリースされました。前作『D’AZUR』が発表されたのは2015年なので、オリジナル・アルバムとしては4年近いインターバルがあったということになります。『FRAGMENT』は、再始動後にシングルとしてリリースされた3曲およびアルバム用に録音された8曲の全11曲で構成されています。アルバムを聴き続ける中で感じたことを、カケラを拾い集めるようにまとめて、書き残しましょう。

ずっと変わらない藍井エイルの魅力は、その綺麗な歌声です。クリアであり、エモーショナル。そして彼女が再び歌い始めてから、歌声がより厚みを増したのではないかと思いながら、この一年に発表された曲を聴いてきました。さらに『FRAGMENT』を聴くと、その歌声から感じたのは明るい雰囲気です。綺麗でありながら厚みがあり、あたたかい光を投げかける、懐の深い歌声を聴かせてくれます。

アルバム全体を通して印象に残る音は、やはりギターの音ですね。分厚くてノイジーな音が生み出すロック・スタイルから、さまざまなメロディが飛び出します。その一方で存在感を示すのがピアノです。いくつかの曲では、ピアノの音が曲に陰影をつけ、立体的に照らします。ギター・ロックの中で輝く凛としたピアノの響きが心地好い。

アルバムの幕を上げる曲は、再始動の宣言と同時に公開された「約束」です。再び歌うことを決め、それを伝える言葉が、美しいメロディとともに響き渡ります。続いて、アルバムにおける最初の新曲「SINGULARITY」が飛び出します。ストレートに飛び込んでくる音が心地好く、爽やかさを感じる曲です。「約束」と「SINGULARITY」ではストリングスの四重奏が加わり、曲に膨らみを持たせていますね。

「流星」は2018年4月に配信(6月にはシングルとしてリリース)され、「UNLIMITED」はアルバム発売の一ヶ月前に先行して配信されました。どちらもアップテンポですが、タイプが異なる曲であり、いうなればハード・ロックとオルタナという感じでしょうか。「グローアップ」は思春期らしい反発や隠し切れない本音を歌詞にして、攻撃的な音でコーティングして歌う、これまでとは一風変わったアプローチの曲です。

「螺旋世界」のイントロやサビ、間奏ではギターが曲を引っ張り、中毒的にループするフレーズを聴かせます。また、ピアノの存在も大きく、特にBメロでは鮮やかに響きます。さらに最後の間奏では、ジャズ・ピアノを思わせる演奏が心をぎゅっと締め付けます。エンディングではギターが前に出てきて、曲を締めます。弦と鍵盤が生み出すメロディに震え、その虜になります。

ギターのアンサンブルが魅力的な「パズルテレパシー」。エレクトリック・ギターとアコースティック・ギター、それぞれの音の良さが交差します。跳ねた感じのリズムも心地好い。「FROATIN’」はボーカルに加えて、ギターの音もまたエモーショナルで、心が揺さぶられます。歌が切ないから音が切なく聞こえるのか、その反対か、あるいは互いに引き合うのか。

「アイリス」では厚みの増した歌声が聴けます。シングルとしてリリースされたとき、歌の雰囲気が変わったような気がしたものですが、後にそれは歌声の厚みなのだろうと思い至りました。続く「今」の特徴は、ポップなメロディが特徴で、ボーカルも親しみやすさを前面に出しています。からりとした空気、穏やかな光に包まれている気がします。

『FRAGMENT』の最後を飾る曲は、アルバムの表題曲ともいえる「フラグメント」です。ダイナミックに響くギターと、鮮やかに、そして高らかに鳴るピアノの音。歌も音も詞も軽やかで、聴いていて心地好い。初夏の風が吹いてくる気がしました。気持ちも身体もふわりと軽くなって駆け出したくなります。

藍井エイルのオリジナル・アルバムをリリース直後に聴くのは『FRAGMENT』が初めてです。彼女の曲を聴き始めたのは『D’AZUR』がリリースされてから一年後でした。当時は活動休止に至るとは思いも寄らず、その後は次のアルバムを聴ける日が来ることを期待してはいけないと思っていました。だから再始動の知らせは驚いたし、とても嬉しかった。

こうして新しいアルバムを聴けることに感動しながら、歌に音に耳を傾け、心を預けます。新しい音楽をリアルタイムで体験できることはライブで音楽を浴びることに匹敵する、素晴らしい音楽の楽しみ方だと思います。すべての新曲はやがて日常に溶け込むにしても、この瞬間に抱いている感動は今という時間に刻みたい。

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Written by fujiokashinya

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