藍井エイル「鼓動」「Contradiction」:ふたつの顔を見せる歌声、相反する世界を映すロック・サウンド

fujiokashinya
Jun 29, 2021

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藍井エイルのシングル「鼓動」がリリースされました。4月に先行配信された表題曲のほか、そのアコースティックとインストゥルメンタル、そして新曲「Contradiction」が収録されています。

最初に「鼓動」を聴いたとき、僕は「背中を強く押す追い風」をイメージしました。それから何度も何度も聴くなかで、ロック・サウンドが起こした風は弱まることはなく、ずっと僕の背中を押し続けています。また、歌声は力強さとともに艶っぽさを感じさせ、その姿は美しい。世には儚い印象の美声も存在しますが、エイルの場合は芯の太い、厚みのある美声です。

「鼓動 -Acoustic ver.-」では、オリジナルよりテンポを落とし、アコースティック・ギターの伴奏でエイルが歌います。歌声やメロディの輪郭がよく見えて、その魅力を堪能できます。ピアノの音で「IGNITE」を歌ったTHE FIRST TAKEを彷彿とさせるパフォーマンスです。この歌声を聴いていると、白い部屋に立つ一本のマイクが脳裏に浮かびます。

インストゥルメンタルは曲のもうひとつの顔です。「鼓動 -Instrumental-」では、ギターが奏でる叙情的なメロディがよく聞こえます。他の音が落ちて、オルガンの音が響くところも好きです。歌のない世界で音は新しい絵を描き、新しい物語を綴り、「鼓動」に対する印象が刷新されます。音だけでも楽しめるアレンジであることが伝わり、歌声の存在感の大きさも改めて感じました。

「Contradiction」では、ヘビーな音が重なり絡み合うロック・アンサンブルが素晴らしい。ベースとドラムは重くて厚く、そして腹に響く音を生み出し、交錯するギターとピアノからは、時として両者が戦っているかのようなスリルを感じます。個々のパートが際立ちながらも、ひとつのサウンドを形作り、歌が絵筆を走らせるカンヴァスとなるのです。

同じロック・ソングでも「鼓動」とはタイプが異なります。「鼓動」が陽なら、「Contradiction」は陰。交錯する音のなかで、歌が感傷的でメランコリックな空気を生み出しています。光に背を向け、黒く伸びる影に引きずられるように歩く。そんなイメージが浮かびます。またひとつ、エイルの歌声の新たな表情を見ました。

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Written by fujiokashinya

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