藍井エイル「螺旋世界」:グラデーションを描く歌とループする音、聴き手を呑み込むスパイラル

fujiokashinya
Oct 23, 2021

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2018年2月に再始動した藍井エイルは、翌年4月にアルバム『FRAGMENT』をリリースしました。アルバムに収められた曲はどれも素晴らしく、魅力的です。なかでも「螺旋世界」は、シングル以外の曲のうち、最も鮮烈で最も強烈な印象を残しました。ロックの力強さとファンクの色気をまとったエイル流の踊れるロック・ソングです。

「螺旋世界」のサウンドを象徴するのは、イントロやエンディングなどで響くギターの音です。ループするギターのフレーズは中毒性が高く、ダンス・ミュージック的で、何度聴いても熱くなります。ギターのループに合わせるかのようなリズムも特徴的です。分厚いドラムとそれに絡みつくコンガの音が曲の中毒性をさらに上げます。また、Aメロではアコースティック・ギターが、Bメロではピアノの音が曲を彩ります。最後の間奏では、ピアノとアコースティック・ギターによる叙情的な演奏が胸を打ちます。

「螺旋世界」では、ボーカルがまとう空気もサウンドと一体化しています。哀愁を感じさせながら、メランコリックに沈み、無機質かと思えば、艶めいた雰囲気も見せる歌声。そのイメージを色で描くなら、濃淡鮮やかなブルーと深く沈むブラックのグラデーションとでもいいましょうか。空のように鮮やかな青は黒によって映え、暗く濃密な青は黒の世界を広げます。サウンドだけではなく、歌に関しても新しいエイルの世界を見ました。

2019年のライブで「螺旋世界」を聴いたとき、「曲が解き放たれた」という感想を持ちました。果たして「ライブで化けた」というべきなのか、それよりも強烈な体験で、いうなれば「開けてはいけない扉を開けてしまった」。イントロでギターが鳴った瞬間の驚きと感動は今でも覚えています。赤と青の光に染まるステージで、音は螺旋を描き、観客を呑み込み、その記憶を書き換える。このフレーズを爆音のギターで浴びると、アルバムで抱いた第一印象を上書きするインパクトがあり、さらに「螺旋世界」が好きになりました。

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