映画『にがくてあまい』:野菜を介して影響し合い、置き去りにした苦い過去と向き合う
映画『にがくてあまい』が劇場公開されたのは2016年。原作は小林ユミヲの同名の漫画です。原作ファンだったので映画で改変されるのが嫌で観なかった…というわけではなく、むしろどのような世界に仕上がるか楽しみだったのですが、タイミングを逸しました。封切りから3年以上が経ち、やっと観る機会を得ました。
映画のストーリーは原作の単行本第1巻が軸になっており、そこに第2巻以降の登場人物やエピソードが盛り込まれました。マイナーチェンジはあるものの、原作から大きくかけ離れたという印象はありません。原作のテーマや表現を大事にしながら、エピソードのボリュームや順番を調整し、新しい物語としてまとめる。「このシーンとこのシーンをこういう風につなげるのか」などと、物語の編み方を楽しみながら観ました。僕は別に原作原理主義ではないのですが、それでも原作で好きなシーンが映画にも登場すると嬉しくなります。
物語は、食べ物に無頓着な「マキ」(川口春奈)の仕事風景を映すところから始まります。彼女は極度の野菜嫌いでしたが、「渚」(林遣都)と出会うことで野菜を食べるようになり、その魅力に引き込まれていきます。そして野菜嫌いの原因であるマキの父親「豊」との確執についても、渚の助けを借りながら向き合います。
渚も問題を抱えていました。彼は兄の死の責任をずっと感じ続けてきましたが、マキとの同居生活の中で、その消化しきれない思いが変わります。渚はマキに影響を与えながら、同時にマキから影響を受けていた。そのことを示すのが、マキがトマトを食べるラストシーンであり、ここは原作でも感動したポイントです。
その他、「操」(マキの母)、「ばばっち」(渚の後輩教師)、「アラタ」(渚の元同居人)、「ヤッさん」(二人が通うバーのマスター)、「ミナミ」(マキの仕事相手)などの脇を固めるキャラクターや、映画オリジナルのキャラクターが、物語に華…というか、笑いを添えます。新田真剣佑(当時は「真剣佑」)や松本穂香といった、今やCMやドラマでよく見る役者たちも出演しています。動画配信サービスでも観られるので、この世界を一度味わってみるのはいかがでしょうか。