北村暁夫『イタリア史10講』:多彩な地域が集まるイタリアは、いかにして多様化し、いかにして統合されたのか
2020年は岩波新書や中公新書を通して世界史に触れる機会の多い一年でした。高校生の頃に蓄えた知識を掘り起こしつつ、新たな知識を取り込む。知的好奇心が刺激される感覚を思い出しながら、大人の読書体験を積み重ねました。そのなかの一冊が、北村暁夫の『イタリア史10講』です。
自分はイタリアの歴史をどのくらい把握していたのか。古代ローマ、中世の都市国家、ルネサンスなどのポイントは知っていても、それらの意味や関係までは考えたことがなく、いつの間にか「昔からイタリアはまとまっていた」と思い込んでいました。
その思い込みから解放されたきっかけがヴェネツィアです。ヴェネツィアの歴史をたどるなかで、北イタリアの諸都市や他のヨーロッパ諸国との関係に触れ、いつしかイタリアという地域の多様性に興味を持ちました。ある意味ではバラバラともいえるこの性格は、どのようなプロセスで形成されたのか。
イタリアの来し方を知りたくなって手に取ったのが『イタリア史10講』です。著者の専門である19世紀後半以降の方が充実しているものの、一方ではイタリア統一前の歩み、すなわち古代から近世にかけてイタリアの各地域がたどった道を概観することができます。
エトルスキやマグナ・グラエキア、古代ローマの繁栄と滅亡、神聖ローマ帝国による支配、都市国家の成立、領域国家への発展、各地の啓蒙改革、そして統一国家の樹立。注目すべきポイントはいくつもあり、ひとつひとつをフォローすることで、イタリアの輪郭が浮かび上がります。
フランス帝国の直轄領になったピエモンテやリグーリアを含め、イタリア半島全域がフランスの支配に組み込まれたことで、さまざまな制度的統一が果たされ、封建的諸特権の廃止によって近代的な土地所有が促進された。また、緑・白・赤の三色旗がシンボルとして用いられるようになるなど、象徴的な一体性も生み出されていった。こうした制度的な一体化は、ナポレオンが失脚したのちのウィーン体制においても維持され、のちの国家統一に向けた伏線となったのである。
北村暁夫
『イタリア史10講』
なかでもイタリア統一のプロセスが印象に残りました。サヴォイア家のサルデーニャ王国を中心として、ひとつにまとまっていったイタリア。ナポレオンによる支配、リソルジメント、対オーストリアの独立戦争など、18世紀末から19世紀にかけて、いくつもの動きが重なり、ひとつの流れに収斂します。カヴールやヴィットーリオ・エマヌエーレ2世くらいしかなかった自分の知識のカタログが、一気に厚みを増しました。
知らないことを知るプロセスは、知的好奇心が刺激され続けるダイナミックな体験です。欠けていた知識のピースを拾い集め、自分の思考に組み込む。歴史を見る視点がひとつ、またひとつと増えます。それは大人の読書体験ならではの楽しみといえます。